1級建築士の学科試験は独自の合格基準と足切り制度があり、数ある資格試験のなかでも難易度が特に高い試験です。足切りを避けて学科試験に合格するためには、勉強方法を工夫する必要があるでしょう。
ここでは、1級建築士の合格基準点と足切りの仕組みを踏まえ、学科試験の合格に向けた足切り回避のポイントを解説します。
目次
1級建築士の合格基準点と足切りの仕組み
1級建築士の合格基準点と、学科試験で実施される足切りの仕組みを見ていきましょう。
学科試験の科目基準と設計製図試験の合否判定基準
1級建築士試験は、四肢択一式の学科試験と、実技試験にあたる設計製図試験にそれぞれ合格しなければなりません。学科試験では科目ごとに設定される合格基準点、設計製図試験の合否判定を行う採点結果の区分が以下のように定められています。
学科試験の科目の合格基準点(令和3年) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
科目 | 学科Ⅰ (計画) | 学科Ⅱ (環境・設備) | 学科Ⅲ (法規) | 学科Ⅳ (構造) | 学科Ⅴ (施工) | 総得点 |
合格 基準点 | 10 | 11 | 16 | 16 | 13 | 87 |
出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター
https://www.jaeic.or.jp/shiken/1k/1k-gokaku20200908.files/1k-gakka-gokakuhappyo-202009.pdf
設計製図試験の採点結果の区分と合格基準 | |
---|---|
区分 | 採点結果 |
ランクⅠ | 「知識及び技能」*を有するもの |
ランクⅡ | 「知識及び技能」が不足しているもの |
ランクⅢ | 「知識及び技能」が著しく不足しているもの |
ランクⅣ | 設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの |
合格基準 | 採点結果における「ランクⅠ」を合格とする |
*「知識及び技能」とは、1級建築士として備えるべき「建築物の設計に必要な基本
的かつ総括的な知識及び技能」をいう。
1級建築士の合格基準点の仕組み
1級建築士の学科試験の最終的な合格基準点は、上記の表の「総得点」です。学科試験に合格するためには、各科目でそれぞれ合格基準点を上回り、総得点以上の得点を取る必要があります。1級建築士の学科試験の総得点は固定でなく、以下のように年度ごとに変動します。
過去10年の学科試験の総得点 | |
---|---|
年度 | 総得点 |
平成24年 | 94 |
平成25年 | 92 |
平成26年 | 90 |
平成27年 | 92 |
平成28年 | 90 |
平成29年 | 87 |
平成30年 | 91 |
令和元年 | 97 |
令和2年 | 88 |
令和3年 | 87 |
令和4年 | 91 |
合格基準点は「各科目は過半の得点、総得点は概ね90点程度を基本的な水準として想定」する決まりです。しかし、想定の合格率と実際の試験の総得点に差がある場合、合格基準点の総得点を補正するため、年度によって総得点が変動します。
直近の令和3年度の総得点が87点と低いのは、学科Ⅰ(計画)をはじめとして全体的な難易度が例年より高かったことが影響したようです。
足切りは学科試験で実施
それぞれ科目基準点が設定されているということからわかるように、学科試験では科目基準点と総得点を全て上回ることが合格の条件です。
つまり、総得点が合格基準点を上回ったとしても、「1科目でも科目基準点に満たないと不合格になる」というのが足切りの仕組みです。1級建築士の学科試験に合格するには1科目も落とすことができず、また、設計製図試験においても、ランクⅠのみが合格という難しさがあります。
1級建築士の合格率と足切りを回避するポイント
1級建築士の合格率を踏まえ、足切りを避けるために必要なポイントを紹介します。
1級建築士の合格率を再確認
過去5年間の1級建築士試験における、学科、設計製図、総合の合格率は次のとおりです。
1級建築士の合格率 | |||
---|---|---|---|
年度 | 学科 | 設計製図 | 総合 |
平成30年 | 18.3% | 41.4% | 12.5% |
令和元年 | 22.8% | 35.2% | 12.0% |
令和2年 | 20.7% | 34.4% | 10.6% |
令和3年 | 15.2% | 35.9% | 9.9% |
令和4年 | 21.0% | 33.0% | 9.9% |
出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター
https://www.jaeic.or.jp/shiken/1k/1k-data.html
1級建築士は、学科試験そのものの難易度が高いうえに足切りによる不合格もあることから、9割近くが不合格になります。1回の受験で学科・設計製図と合格するケースは稀で、数年がかりで取得することが一般的です。
また、設計製図試験はランクⅠのみが合格という厳しい基準がある一方、合格率は例年40%前後と比較的高くなっています。
学科試験の足切り対策:なるべく高得点を狙う
学科試験に合格するには、各科目で少なくとも5割以上、総得点で90点近くの得点が必要です。合格基準点を上回るために、全科目で少しでも高得点を狙うことが大切です。
先に紹介したとおり、合格基準点は年度によって変わるため、総得点90点前後のギリギリの点数では不合格になる可能性があるので注意しましょう。
学科試験の足切り対策:苦手科目を克服する
一つでも苦手科目があると、足切りのリスクが高くなります。基準点以上の点が取れるようになるまで、苦手科目は重点的に勉強しましょう。満点を取る必要がないと意識すれば、心理的なハードルも低くなるはずです。
学科試験の足切り対策:法規で高得点を目指す
法規は出題数が多く、配点も高い重要科目ですが、過去問と似た傾向の問題が頻出します。
さらに、出題範囲がほぼ決まっているため、問題を解くほど解答スピードが速くなり、より高得点が狙えます。法規で高得点がとれれば、ほかの科目の負担が減るため、より合格に近付くでしょう。
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勉強方法を工夫すれば、1級建築士の足切りは回避できる!
1級建築士は学科試験、設計製図試験でそれぞれ合格基準が定められています。学科試験は科目ごとの合格基準点と全科目の総得点を全て上回ることで合格する仕組みです。ただし、1科目でも科目の合格基準点に満たないと、足切りで不合格になるので注意しましょう。
学科試験の足切りを防ぐには、苦手科目の克服、法規を含めた全科目で高得点を狙うのが重要なポイントです。法規は貴重な得点源になりえる科目なので、早い段階から勉強をはじめることをおすすめします。
1級建築士の学科試験は難易度が高いことに間違いありませんが、きちんと対策すれば合格できるチャンスは十分あるでしょう。