建物の設計や工事監理を行う建築士には、1級・2級・木造の3種類が存在します。1級と2級は具体的に何が違うのか、建築士を志す方は疑問に思うことでしょう。 こちらでは、1級建築士と2級建築士の違いを、資格の内容、仕事内容、試験の難易度、収入、メリットにわけて解説します。
目次
1級建築士・2級建築士資格の具体的な違い
1級建築士と2級建築士の資格は、具体的に何が違うのでしょうか。仕事内容にも大きく関わるので、両者の違いをしっかり確認しておきましょう。
設計できる建物の規模と仕事内容
1級建築士と2級建築士の明確な違いは、設計できる建物の規模と構造の制限です。2級建築士の場合、以下の条件を満たす建物の設計と工事監理に携わることができます。
建物の構造 | 木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、石造、れんが造、コンクリートブロック造、無筋コンクリート造(学校や病院などの公共施設は、延べ面積500㎡以下のもの) |
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木工建築物の規模 | 高さ13mかつ軒の高さが9m以下、2・3階では延べ面積1,000㎡以下 |
木造以外の建物の規模 | 高さ13mかつ軒の高さが9m以下、延べ面積30~300㎡以内 |
その他の構造の建築物 (木造以外) | 延べ面積1,000㎡以下 |
ご覧のとおり、2級建築士が携われる建物は、一般的な戸建て住宅など小規模なものに限られます。一方、1級建築士の場合、建物の構造や高さ、延べ面積に一切の制限がないため、大規模な建物の工事に携わることが可能です。
設計と工事監理という基本的な仕事内容は、1級・2級ともに共通です。ただし、1級建築士は大規模な公共施設や商業施設、高層マンションに携われるため、設計できる建物の種類が2級よりも多くなります。
受験資格
受験資格は、令和2年建築士法改正により緩和されました。
元々、1級建築士の受験資格は、
「大学などで建築系の指定学科を修了する」、または「2級建築士・建築設備士の実務経験が4年以上ある」
2級建築士の受験資格は、「指定学科を大学で修了すると実務経験は不問」、「高校・中学では3年以上」、「指定学科の学歴がない場合は7年以上」
となっておりました。
ただし、建築業界は慢性的な人手不足が続いていることから、建築士法の改正により、令和2年から受験資格が大幅に緩和されました。主な変更点は、実務経験の扱い方と免許登録要件に関する内容です。
実務経験を受験資格から建築士免許登録の要件に変更し、受験時の実務経験を不問にする(※指定学科の修了条件は変更なし) |
学校卒業後に実務経験を経て受験する場合、免許要件に受験前の実務経験を加算する |
1級建築士の免許登録要件において、2級建築士として実務経験4年以上の要件を追加 |
2級建築士の免許登録要件において、指定学科を高校・中学で修了した者は実務経験3年から2年に短縮 |
このように、実務経験がなくても受験できるうえに、免許登録要件の内容も緩和されました。
簡単にまとめると、
2級建築士の受験資格は
- 大学、短期大学、高等専門学校、高等学校、専修学校、職業訓練校等において、指定科目を修めて卒業した方
- 実務経験を7年以上積んだ方
- 建築設備士の資格を取得している方
1級建築士の受験資格は
- 大学、短期大学、高等専門学校、専修学校等において指定学科を修めて卒業した方
- 2級建築士の資格を取得している方
- 建築設備士の資格を取得している方
となります。
学科試験合格の有効期限も3年目から5年目に延長されたので、建築士試験を受験するハードルがかなり低くなったといえるでしょう。
免許の発行元
同じ建築士という名称ですが、1級建築士は国土交通省、2級建築士は都道府県と免許の発行元が異なります。1級建築士は国が関わっていることもあり、より専門性の高い資格といえるでしょう。
難易度は1級が特に高い
1級建築士の合格率は、学科試験で約20%、製図試験で約40%、総合で10%前後と国家試験の中でも高難度の試験です。
一方、2級の場合は、学科試験で30%前後、製図試験で約50%、総合で20%前後で、いかに1級の難易度が高いかがわかるでしょう。
両資格ともに製図試験の合格率が高いのは、課題が試験日の3か月前に公開されることが要因の一つと考えられます。学科試験は出題傾向が過去問と似ていましたが、近年では新傾向問題が出題されているため、学科試験の難易度は上がっているでしょう。
1級・2級の収入の違い
1級建築士は建物の規模に制限がなく、仕事の幅も広いため、2級建築士よりも収入が高い傾向があるといえるでしょう。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、1級建築士の年収は630万前後、2級建築士は500万前後となっています。
1級建築士の方が扱える建築物に制限がなく、 仕事の幅が広がるため、2級建築士よりも収入が高い傾向があるといえるでしょう。
ですが、1級建築士も2級建築士も、大手ゼネコン、設計事務所、ハウスメーカー、中小の建設会社など、勤務先の規模によって年収の幅は異なります。
ちなみに資格手当に関しては、2級建築士はおよそ5,000円~8,000円、1級建築士は1万円が相場といわれています。
さらに詳しく!
1級建築士は稼げる?平均年収とおすすめの職業は?
1級建築士・2級建築士のそれぞれのメリット
1級建築士は大規模な公共施設や商業施設、モニュメント等の建築物の工事に携われます。 また、2級建築士よりも給料のベースが高いこと、1級建築士の上位資格に挑戦できることもメリットです。
上位資格とは、構造設計1級建築士・設備設計1級建築士のことで、1級建築士の実務経験を5年以上積むことで受験できます。
大規模な建築物の設計、設備のスペシャリストとして活躍できるため、さらなるキャリアアップに役立つでしょう。
一方、2級建築士のメリットは、1級よりも資格を取得しやすいこと、需要が高い小規模建築物のスペシャリストになれることです。
大規模な建築物に携われないことはデメリットに感じられるかもしれませんが、工事の需要でいえば小規模な建物の方が高いのが実情です。
住宅建設の設計と工事に携わる2級建築士は、お客様の理想を叶えるために一緒に考えながら建物を建てるという面白さを味わえることもメリットの一つでしょう。
また、1級建築士の免許登録要件も緩和されたため、2級建築士として経験を積むことで、1級へのキャリアアップも狙えます。
1級建築士と2級建築士のどちらを取得すべきか
2級建築士と1級建築士のどちらを取得すれば決められないという方も多いでしょう。そのようなときはご自身の価値観を見直してみてはいかがでしょうか。求める仕事や働き方、自分の性格などを踏まえ、総合的に判断することが大切です。
2級建築士に向いている方の特徴
2級建築士は戸建て住宅をメインに設計します。そのため、住宅を専門に設計していきたいと考えている方には、2級建築士がおすすめです。
住宅設計は、一人ひとりのお客さまと密接に関わる仕事です。反対に大規模な建築物の設計では、不特定多数のお客様と関わるため、利用者をイメージしづらいところがあります。お客さまの存在を実感しながら設計をしたい方には、2級建築士が向いているでしょう。
1級建築士に向いている人
1級建築士は、オリンピック競技施設など、国を代表する大規模な建築物の設計や国家的なプロジェクトに関わりたい方、世界を股にかけて活動したい方に適しています。海外で仕事をしたい方には、1級建築士の取得は必須です。
こだわりがない方
どんな建築物に携わりたいのか、特にこだわりがない方も1級建築士の取得が必要といえます。なぜなら、建築の一般企業は、住宅よりも商業施設や公共施設の設計が多いからです。1級建築士でないと設計ができないものがあります。
そのため、こだわりがなければ1級建築士を取得するとよいでしょう。圧倒的に仕事の幅が広がります。また、将来は住宅の設計をやりたいと考えている方も、1級建築士があれば行えるので心配無用です。
2級から1級へのステップアップも
1級建築士は試験範囲も広く、難関資格のため、2級建築士を取得してから1級建築士を目指そうと考えている方も多いでしょう。
1級建築士は小規模から大規模な建築物まで対応できるため、仕事の幅が一気に広がります。 2級建築士をとったら、ぜひ1級建築士を目指してみてください。努力と勉強に費やす時間は膨大ですが、目指す価値はあるでしょう。
1級・2級建築士の最大の違いは建物の規模
1級建築士と2級建築士の大きな違いは、携われる建物の規模です。2級建築士では小規模な建物に限られる一方、勤務先の企業の規模で年収に幅があるのが特徴です。
また、2級建築士は住宅建設のスペシャリストとして活躍できることもメリットでしょう。 一方、1級建築士は規模に制限がないため、地図に残る公共施設や商業施設の建設に携われます。収入も2級建築士より高くなること、設計や設備のスペシャリストになれる上位資格を受験できることが大きなメリットです。
令和2年度からは受験資格と免許登録要件が緩和されたため、建築士の試験に挑戦しやすくなります。 どのような建築物に携わりたいかという観点だけでなく、どのようなお客様とお仕事をしたいのか、ご自身の性格に合うのはどちらか、という目線も重要になるでしょう。
建設業界は人手不足が続いているため、将来的なキャリアアップを考え、建築士の試験を受験することをおすすめします。
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