厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は「顧客等からのクレーム・言動のうち、要求の実現手段や態様が社会通念上不相当で、かつそれにより就業環境が害されるもの」と定義されています。
つまり、たとえ「クレーム」であっても、内容や言動が正当な範囲を超えていれば、それは「ハラスメント」になるーーということです。
では、実際に「カスハラ」と判断された具体例は、どのようなものだったのかいくつかご紹介します。
目次
実際に問題化したカスハラの具体例
下記は、過去に報告された、あるいは裁判で問題となった事例や具体例です。どれも「他人事ではない」「いつ自社で起こってもおかしくない」ものばかりです。
長時間の怒鳴りと罵倒、脅迫
ある公的機関の窓口職員が、住民からの問い合わせ対応で、電話を切るまで延々と怒鳴られ続けた。暴言や人格否定、暴言に加えて「殺すぞ」「不幸にしてやる」「家に火をつける」などの脅迫まがいの発言もあった。こうした言動は精神的苦痛だけでなく、業務の継続を不可能にするレベルで、裁判所は不法行為と認め、差し止めと損害賠償を認めた。
執拗な電話連続、長時間拘束
同じく公的機関に対し、数か月にわたって数十回にわたる情報公開請求や苦情電話が繰り返され、合計で23時間以上におよぶ通話・対応を強要された。しかも「特定の担当者でなければ話さない」「お前は高卒で怠慢だ、辞めろ」など人格否定や侮辱の言葉が含まれていた。裁判所は「業務妨害」と認め、賠償を命じた。
暴力・物の破壊、身体的な威圧
店舗の従業員に対し、商品を投げつける、物を叩きつけて威嚇する、胸ぐらをつかむ、あるいは暴力をちらつかせる行為など。これらは、単なるクレームの域を超え、刑法上の暴行・脅迫、威力業務妨害などの犯罪として問題とされるケースもある。
不当な要求や土下座強要、金品の要求
「すぐに土下座しろ」「給料の何倍もの慰謝料を払え」「他の客には販売するな」「この店を今すぐ開けろ」といった、店舗運営のルール・契約内容を無視した過剰な要求。サービス業では、こうした要求を「お客様の言うことを聞けばいい」という古い慣習で受け止めてしまうところもあるが、これもカスハラとされる可能性が高い。
セクシャルハラスメントや差別的言動
特に酒店・飲食、介護、医療などの現場では、性別や年齢、見た目を理由にした侮蔑的な発言、性的な冗談やセクハラまがいの言動が報告されている。「女だから」「若いから」「お前みたいな…」などの差別的・侮辱的言葉が含まれる。こうした言動も、人格権・尊厳を侵害する行為として、カスハラに該当します。
これらの例を見てわかるとおり、カスハラは「ある日突然」ではなく、「日常的」「継続的」に起こり得ることが多い。そして、一度でも発生すれば、被害従業員の心身に深刻なダメージを与え、企業にとっても重大なリスクとなります。
なぜ“放置=危険”なのか
精神的・身体的なダメージ
長時間の罵倒や脅迫、身体に対する威圧は、被害者のメンタル不調を引き起こします。職場への信頼を失い、休職・退職につながる例が後を絶ちません。
業務継続性の阻害
執拗な要求、長時間の拘束、繰り返される電話対応などは、現場の業務運営を妨げます。他の顧客対応や通常業務が滞り、サービスの質低下、クレームの再発、さらなる混乱を招きます。
“正当なクレーム”と“カスハラ”ー境界線の見極めが重要
もちろん、顧客のクレームや要望には正当なものがあります。たとえば「購入した商品が壊れていたので交換してほしい」「届けたサービスが説明と異なっていたので改善してほしい」といった合理的な内容は、当然に対応すべきです。
しかし、たとえ要求内容が妥当だとしても、「その言い方」「その態度」「その手段」が社会通念を超えていれば、それはカスハラと判断されます。厚労省マニュアルも、次のような3ステップによる判断を推奨しています。
- 要求内容の妥当性
商品・サービスの内容などに照らして合理的か。 - 手段・態様の相当性
大声・脅迫・暴力・長時間拘束など社会的に許される範囲か。 - 就業環境への環境
従業員が安心して働ける環境が壊されているか。
この判断を曖昧に放置すれば、企業は知らず知らずのうちに「従業員を守るべき責任」を果たせずに危機を招くかもしれません。
現場の安全と企業の未来を守るために
カスハラは単なる「お客様トラブル」ではなく、「人権」「尊厳」「安全な職場環境」を脅かす重大なハラスメントです。
そして、この問題を「うちの会社では起きないだろう」と他人事で済ませるにはあまりにも危険です。
もしあなたが人事・現場管理・経営の立場にあるなら、今こそ、カスハラのリスクを“見える化”し、対策を組織として講じるべきです。
- 社内で「何がカスハラにあたるか」を共通認識として持つ
- 相談窓口や対応フロー、記録制度を整える
- 従業員を守る方針を明文化・発信する
それが、あなたの職場を守り、同時に従業員にとって「安心して働ける場所」をつくる最短の道です。
無料ウェビナーのご案内
SAT株式会社主催でカスハラ対策に関するウェビナーを企画しております。
◆概要
近年、顧客による迷惑行為ーいわゆるカスタマーハラスメントが社会問題となっています。2024年の販売・サービス業従事者を対象に行った調査では、直近2年以内で迷惑行為の被害にあったと答えたのは全体の5割弱に上り、そのうちの9割がカスタマーハラスメントによってストレスを感じていると回答しました。法律が制定されたりマニュアルが作成されたことにより減少傾向にあるものの、依然として数は多いままです。
そこで、カスタマーハラスメント対策を事業主の義務とする改正労働施策総合推進法が2025年6月に法改正され、2026年中の施行が見込まれています。法改正により2026年中にカスタマーハラスメントについて対策を講じる必要があることが制定される見通しです。これを機に、カスタマーハラスメントについて深く知り、自社の対策のきっかけとしませんか。
◆登壇者
小菅昌秀先生(サミット人材開発株式会社 代表取締役)
◆登壇者紹介
講師・コンサルタントとして全国の400以上の官公庁・県庁・自治体、大手企業を中心とした600以上の企業で6000回以上の研修実施の実績。
クレーム対応・コンプライアンス等リスクマネジメント分野において、国際標準規格のISO10002の意見書発行数トップクラスで、この分野の研修の国内第一人者である柴田純男氏の一番弟子であり、数多くの研修依頼が後を絶たない。クレーム対応には現在も不動産管理会社の重篤なクレームやトラブルに対応しており、この仕事に30年従事している。
◆日時
12月16日(火)12:00~13:00
◆タイムテーブル
12:00~12:05 ガイダンス
12:05~12:45 小菅先生研修
12:45~12:50 企業研修サービスSAT PRO紹介
12:50~13:00 質疑応答
◆定員
300名
◆主催者
SAT株式会社
◆使用ツール
ZOOM
◆参加料
無料
「カスハラ対策」について考える一助になれば幸いです。参加希望の方はこちらからお願いします。
































