振動工具を使う作業者にとって振動障害は、振動工具の振動をおもな原因とする障害のことです。
振動障害を発症すると、手指の冷え、痺れ、痛み、こわばりなどの症状があらわれます。振動工具による振動障害を防止するにはいろいろな対策がありますが、主に6つの対策を講じることができます。
そこで今回は、振動障害を発症する原因と症状、振動障害防止対策について解説します。
目次
振動障害とは?
振動障害とは、振動を発する振動工具の使用により、手指や腕の痺れ、冷え、麻痺、レイノー現象などが起きる障害です。レイノー現象とは、手指が白くなって痺れ、その後に赤や紫に変色する現象です。振動工具を取り扱う作業者であれば気をつけなければならない症状の一つです。
振動障害は、末梢循環障害、末梢神経障害、運動器障害の3種類で構成されます。いずれも根本的な治療法がないため、温熱療法や運動療法、マッサージなどの対症療法が行われるのが一般的です。
なお、振動障害は手指や腕などの局所的な障害で、全身振動の障害とは区別されます。
振動障害を発症する原因
振動障害の最大の原因は、振動工具で強い振動を受け続けることです。振動障害を発症するおそれのある振動工具には、以下のようなものが挙げられます。
1 | チェーンソー |
2 | ピストンによる打撃機構を有する工具 ・さく岩機 ・チッピングハンマー ・リベッティングハンマー ・コーキングハンマー ・ハンドハンマー ・ベビーハンマー ・コンクリートブレーカー ・スケーリングハンマー ・サンドランマー ・ピックハンマー ・多針タガネ ・オートケレン ・電動ハンマー |
3 | 内燃機関を内蔵する工具(可搬式のもの) ・エンジンカッター ・ブッシュクリーナー |
4 | 携帯用皮はぎ機等の回転工具 ・携帯用皮はぎ機 ・サンダー ・バイブレーションドリル |
5 | 携帯用タイタンパー等の振動体内蔵工具 ・携帯用タイタンパー ・コンクリートバイブレーター |
6 | 携帯用研削盤、スイング研削盤、その他手で保持し、又は支えて操作する型式の研削盤(使用する研削といしの直径が150mmを超えるもの) |
7 | 卓上用研削盤又は床上用研削盤(使用するといしの直径が150mmを超えるもの) |
8 | 締付工具 ・インパクトレンチ |
9 | 往復動工具 ・バイブレーションシャー ・ジグソー |
振動工具は手で支えながら操作するため、振動が手から全体に伝わります。振動により血管の内皮細胞や神経細胞、骨や関節に影響するのが振動障害のメカニズムです。
ドリルなど高周波の振動は手から吸収され、血管や神経の障害を招きます。一方、低周波の振動は、上肢の骨や関節に悪影響を及ぼします。
また、振動工具による振動のほかに、長時間の操作、作業環境、病気、日常生活も振動障害の原因とされています。寒冷な場所で振動工具を操作すると末端神経に影響し、手指の痺れや痛み、冷えなどが起きやすくなります。
振動障害の要因となる病気は、膠原病、閉塞性動脈疾患、糖尿病、頚椎に関する病気などが挙げられます。
さらに加齢による神経細胞の減少、喫煙も振動障害を招く要因です。
振動障害を予防する6つの対策
振動障害はさまざまな要因が複雑に絡みあって発症するため、進行すると回復が困難になります。振動障害を防止するためには、以下の対策法を講じる必要があります。
振動工具の操作時間を管理する
長時間にわたる振動工具の操作は、振動障害を招く大きな要因になり得ます。
以前の振動工具による振動障害の防止対策は、「操作を1日2時間以下、振動値を 3G(29.4m/s2)以下に規制する」というものでした。しかし実際には、高振動の工具を操作する場面が多く、2時間規制では振動障害の防止対策が不十分であることが明らかになったのです。
国際標準化機構(ISO)の検討結果により、振動の周波数、振動の強さ、ばく露時間をもとに対策することが有効と認知されました。厚生労働省は国際標準化機構(ISO)の規定で操作時間を管理する、新たな振動障害予防対策を推進しています。
新たな振動障害予防対策とは、「3軸合成値・日振動ばく露量A(8)・日振動ばく露量の管理」の3つです。
3軸合成値とは「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」のことで、手指に与える振動の強さを表します。振動工具の振動の周波数帯域を抽出、かつ周波数ごとに補正を行い、振動の強さを示す振動値を前後、左右、上下の方向で測定・合成した値です。
日振動ばく露量A(8)とは、1日あたりの振動ばく露量のことです。3軸合成値と、実際に振動工具を保持して操作する時間でばく露を算出します。
日振動ばく露量の管理とは、日振動ばく露量A(8)をもとに、1日の振動ばく露量を管理するものです。「日振動ばく露限界値」を超えないように作業時間を調整する、または、低振動の工具を選定するなどの対策を講じます。
振動工具を正しく操作する
手で操作する振動工具は、ハンドルを強く握る、強く押すなど、筋の緊張を持続するような作業は避けましょう。振動工具から出る排気を、作業者が直接吸い込むような作業方法も避けるべきです。
また、重量がある振動工具を操作する場合は、アームやスプリングバランサーなどで支えながら作業しましょう。
振動工具を慎重に選定し、定期的な点検を実施する
振動障害を予防するには、振動や騒音ができるだけ少なく、軽量のものを選びましょう。ハンドルのみを保持して作業できる、角度が適正で手指や手首に負担がかからない、防振ゴムなどの防振素材が付いている、といった振動工具が望ましいでしょう。
なお、選定した工具は定期的に点検し、安全に使用できる状態を保つことが大切です。
振動工具を使用する事業場は、振動工具管理責任者を選任し、さらに点検・整備状況も記録する必要があります。
特殊健康診断を受診する
振動工具を使用する労働者は、特殊健康診断を定期的に受ける必要があります。雇入れ時、配置転換時に加え、ハンマーやチェーンソーを扱う場合は6ヵ月以内ごとに1回、カッターや研削盤などを扱う場合は1年以内ごとに1回の健康診断が必要です。
特殊健康診断では、以下の項目を健診します。
診断項目 | 概要 |
---|---|
職歴調査 | 経験年数、使用工具の種類、作業状況など |
自覚症状調査 | 既往歴、現病歴などの問診 |
視診、触診 | 爪の変化、指の変形、皮膚の異常、骨・関節の変形・異常、上肢の運動機能の異常および運動痛、腱反射の異常、筋萎縮、筋・神経そうの圧痛、触覚の異常などの有無 |
運動機能検査 | (1)握力(最大握力、瞬発握力) (2)維持握力(5回法) |
血圧、最高血圧および最低血圧 | |
末梢循環機能検査 | 室温 20℃~23℃位の室で30分以上安静にさせた後行うこと (1)手指の皮膚温(常温下) (2)爪圧迫(常温下) |
末梢神経機能検査 (感覚検査) | (1)痛覚(常温下) (2)指先の振動覚(常温下) |
手関節および肘関節のエックス線検査(チェーンソー等以外の振動工具取り扱い業務従事者に対し雇入れの際または当該業務への配置替えの際に限る。) |
なお、診断結果をもとに、管理A、管理B、管理C、管理Tの管理区分に振り分けられます。
管理区分に応じ、振動の影響がある場合は振動業務から外す、療養するといった措置を講じます。
作業環境の管理に気を配る
寒い場所は振動障害を招くため、暖房設備のある休憩室を設けましょう。振動手袋や耳栓などの保護具の着用、作業前後の体操で肩や腕などを動かすことも振動障害対策に有効です。
安全衛生教育を実施する
上記の振動障害予防対策にあたり、事業者は労働者に対し安全衛生教育を実施する義務があります。
振動工具取扱作業者安全衛生教育では、以下のカリキュラムを受講します。全て学科教育のみで実技科目はありません。
科目 | 範囲 | 時間 |
振動工具に関する知識 | ・振動工具の種類及び構造 ・振動工具の選定方法 ・振動工具の改善 | 1時間 |
振動障害及びその予防に関する知識 | ・振動障害の原因及び症状 ・振動障害の予防措置 (※日振動ばく露量A(8)等に基づく振動障害予防対策を含む) | 2.5時間 |
関係法令等 | ・労働安全衛生法 ・労働安全衛生法施行令等中の関係条項及び関係通達中の関係条項等 | 0.5時間 |
合計 | 4時間 |
振動工具取扱作業者安全衛生教育を受講する
振動工具取扱作業者安全衛生教育は、全国各地の安全協会等で不定期に開催されています。
ただし、不定期開催な上に事前予約が必要です。また会場には定員があるため、満席の場合は参加できないこともあるでしょう。
そこでおすすめなのが、通信講座での受講です。
通信講座のメリットは、受講する時間と場所を問わないこと、理解できるまでくり返し学べることでしょう。通信講座はオンラインの動画を中心に勉強するため、自宅はもちろん、通勤中などの隙間時間も有効活用できます。
治療方法が確立されていない振動障害を防ぐため、通信講座で振動工具の正しい扱い方をしっかり学びましょう。
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振動障害防止のため、安全衛生教育で振動工具の知識を学ぼう
振動工具で発生する振動、作業時間、環境などが原因となり、振動工具を用いた業務に従事する作業員は、振動障害を発症するおそれがあります。振動障害には明確な治療法がなく、手の痺れなどの症状が長く続くこともあるため、正しい予防法を講じる必要があります。
振動障害を防止するには、作業の時間管理、正しい操作方法、特殊健康診断の受診などの6つの対策が有効です。
その対策を学ぶことができる振動工具取扱作業者安全衛生教育では、振動工具の知識から振動障害の原因と症状、振動障害の予防措置に関する知識を習得できます。
講習会に参加する方法もありますが、通信講座なら内容を理解できるまで何度も勉強できます。
振動障害の被害を未然に防ぐためにも、自分自身で振動工具と振動障害の理解を深めましょう。