危険予知訓練・活動

リスクアセスメントとKY活動(危険予知訓練)の違いを解説

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リスクアセスメントとKY活動は、労働災害を未然に防ぐ有効な手法です。しかし、リスクアセスメントとKY活動は、具体的に何が違うのかご存じでしょうか?

実は、リスクアセスメントとKY活動は別物ではなく、一緒に実施することで相乗効果が期待できます。

今回は、リスクアセスメントの効果と実施手順、KY活動との違いについて解説します。

リスクアセスメントとは?概要をおさらい

まずはリスクアセスメントの目的と効果、リスクアセスメントの進め方を見ていきましょう。

リスクアセスメントの目的と効果

リスクアセスメントは労働災害防止対策の一つで、労働者の安全確保・リスク低減措置による安全確認方法のことです。

労働災害は労働者の健康被害だけでなく、生産の中断や受注の減少、企業イメージの低下、再発防止のコストなど経営にも悪影響をおよぼします。労働災害が原因で倒産する可能性もあるため、労働災害は起きないに越したことはありません。

そのため、リスクアセスメントで職場のリスクを洗い出し、リスク低減対策を事前に行う必要があります。

リスクアセスメントを実施することで、以下の効果が得られます。

No.リスクアセスメントの効果
1職場のリスクが明確になる
2職場のリスクに対する認識を管理者を含め、職場全体で共有できる
3安全対策について、合理的な方法で優先順位を決めることができる
4残されたリスクについて「守るべき決め事」の理由が明確になる
5職場全員が参加することにより「危険」に対する感受性が高まる

出典:厚生労働省

なお、化学物質などを扱う事業場、安全管理者の選任義務がある事業場は、リスクアセスメント実施が努力義務化されています。

リスクアセスメントの実施手順

リスクアセスメントを実施する手順を、説明します。

実施体制の確立

まず、社長や工場長などの経営側トップが、リスクアセスメントの導入・実施を決意表明することから始まります。それから、リスクアセスメントの実施責任者と推進メンバーを立て、全従業員にリスクアセスメントの実施を周知します。

リスクアセスメントの実施メンバー、および各手順の関連度は以下のように設定しましょう。

リスクアセスメントの実施メンバー(例)
手順
推進体制
危険性又は
有害性の特定
リスクの
見積もり
優先度の
設定
リスク低減
措置の検討
事業者
(社長・工場長)
安全衛生部門の長
(リスクアセスメント責任者)
現場の責任者
(リスクアセスメント推進者)
作業者
(意見の反映)

注) ◎:必ず関わる ◯:必要に応じて関わる △:特別な事情がある場合に関わる

出典:厚生労働省「リスクアセスメントの 導入・実施手順」

実施時期の設定

リスクアセスメントは、労働災害防止対策が必要な時期に実施することがポイントです。リスクアセスメントを行う時期は、以下のタイミングが挙げられます。

No.リスクアセスメントの実施時期
1建設物を設置する、移転する、変更する、又は解体するとき。
2設備を新規に採用する、又は変更するとき。
3原材料を新規に採用する、又は変更するとき。
4作業方法又は作業手順を新規に採用する、又は変更するとき。
5その他、次に掲げる場合等、事業場におけるリスクに変化が生じ、又は生じるおそれがあるとき。
ア 労働災害が発生した場合であって、過去の調査等の内容に問題がある場合
イ 前回の調査等から一定の期間が経過し、機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合

出典:厚生労働省「リスクアセスメントの実施手順」

ただし、上記の時期にこだわらず、危険な作業や作業場所など、できるところからリスクアセスメントを始めてもよいでしょう。

情報の入手

リスクアセスメントで重要な作業が、職場に潜む危険性・有害性を裏付ける情報や資料の収集です。リスクアセスメントに必要な情報や資料は、以下のものが挙げられます。

リスクアセスメントに必要な情報や資料
1. 作業標準、作業手順書、操作説明書、マニュアルなど
2. 使用する設備等の仕様書、取扱説明書、「機械等の包括的な安全基準に関する指針」に基づき提供される「使用上の情報」
3. 使用する化学物質の化学物質等安全データシート(MSDS)
4. 機械設備等のレイアウト等、作業の周辺の環境に関する情報
5. 作業環境測定結果、特殊健康診断結果、生物学的モニタリング結果
6. 混在作業による危険性等、複数の事業者が同一の場所で作業を実施する状況に関する情報(上下同時作業の実施予定、車両の乗り入れ予定など)
7. 災害事例、災害統計(事業場内の災害事例、災害の統計・発生傾向分析、トラブルの記録、労働者が日常不安を感じている作業等の情報、同業他社・関連業界の災害事例など)
8. 作業を行うために必要な資格・教育の要件
9. 危険予知活動(KYT)の実施結果
10. 職場巡視の実施結果
11. ヒヤリハット事例
12. 職場改善提案の記録及びその具体的内容
13. 3S(4S、5S)活動の記録

出典:厚生労働省「リスクアセスメントの 導入・実施手順」

ヒヤリ・ハット事例、KY活動の実施、職場パトロールの記録など、現場で作業する立場から得られる情報もリスクアセスメントに役立ちます。これらの情報を収集するには、作業者が自ら報告する仕組み作りも必要です。

危険性・有害性の特定

危険性とは、機械や火、電気などの危険性や、作業方法・作業場所の危険性を指します。一方、有害性にはガスや粉じん、放射線や高温・低温、振動、作業行動などが挙げられます。

推進メンバーが中心となり、多くの作業者で危険性・有害性を特定することが大切です。危険性、有害性のある作業に携わる作業員はもちろん、業務と直接関わりがない作業員も参加する必要があります。

ただし、職場に潜むリスクは危険度の高いものと低いものがあるため、重点的な対策が必要なリスクを絞ることがポイントです。対象とするべきリスクには、過去の労働災害やヒヤリ・ハット事例、日頃から不安に感じる作業、操作が難しい機械の操作などが挙げられます。

リスクの見積もり

特定した危険性・有害性を、負傷や疾病などの健康被害が起きる「可能性の度合」、災害の「重篤度」を組み合わせてリスクを見積もります。リスクを見積もる手法は複数ありますが、数値化(点数化)でリスク評価をする手法が最も効果的です。

リスクの見積もりを数値化する場合、可能性の度合と重篤度は以下のように4段階で区分します。

可能性の度合の区分例
可能性の度合判定の基準
極めて高い日常的に長時間行われる作業に伴うもので回避困難なもの
比較的高い日常的に行われる作業に伴うもので回避可能なもの
ある非定常的な作業に伴うもので回避可能なもの
ほとんどないまれにしか行われない作業に伴うもので回避可能なもの
重篤度の区分例
重篤度判定の基準
致命傷死亡災害や身体の一部に永久損傷を伴うもの
重大休業災害(1か月以上のもの)、一度に多数の被災者を伴うもの
中程度休業災害(1か月未満のもの)、一度に複数の被災者を伴うもの
軽度不休災害やかすり傷程度のもの

出典:厚生労働省「リスクアセスメントの 導入・実施手順」

次に、見積もったリスクの大きさに応じて対策を行う、「リスクの優先度」を設定します。数値化の手法を用いる場合、リスクの優先度は以下のような基準を設定しましょう。

リスクの優先度例
リスク優先度取るべき措置
30点以上・直ちにリスク低減措置を講ずる必要がある。
・措置を講ずるまで作業停止する必要がある。
・十分な経営資源を投入する必要がある。
10~29点・速やかにリスク低減措置を講ずる必要がある。
・措置を講ずるまで使用しないことが望ましい。
・優先的に経営資源を投入する必要がある。
10点未満・必要に応じてリスク低減措置を実施する。

出典:厚生労働省「リスクアセスメントの 導入・実施手順」

リスク低減措置の検討・実施

優先度が高いと評価されたリスクから、リスク低減措置を検討します。

リスク低減対策を検討するにあたり、法令に定めた事項を必ず実施すること、優先順位をもとに内容を検討することが重要です。リスク低減措置内容を検討する優先順位は、次のとおりです。

No.リスク低減措置内容の検討の優先順位
1危険な作業の廃止・変更危険な作業の廃止・変更、危険性や有害性の低い材料への代替、より安全な施工方法への変更等
2工学的対策ガード、インターロック、局所排気装置等の設置等
3管理的対策マニュアルの整備、立ち入り禁止措置、ばく露管理、教育訓練等
4個人用保護具の使用上記1~3の措置を十分に講じることができず、除去・低減しきれなかったリスクに対して実施するものに限られます

出典:厚生労働省「リスクアセスメントの 導入・実施手順」

なお、リスク低減措置の検討は、リスクの除去・低減が可能かを判断する効果予測、作業性や生産性、品質などへの影響も含めて検討することが大切です。

実施するリスク低減措置の決定後、担当者が決めたスケジュールをもとに措置を実施・評価しましょう。

リスクアセスメント実施記録と見直し

実施したリスクアセスメントが適切だったか、改善が必要かどうかを再度検討します。必要に応じて実施手順の見直し、優先順位の引き上げなどを行ってください。また、内容を改善する際は、作業者の意見を取り入れることも必要です。

リスクアセスメントは、リスク低減措置の実施で終わりではありません。特定したリスク、低減措置の内容などを全て管理することが重要です。記録したものをきちんと整理し、誰もがいつでも内容を確認できるようしておきましょう。

リスクアセスメントとKY活動(危険予知訓練)の違い

KY活動の概要、リスクアセスメントとの違いを見ていきましょう。

KY活動とは?

KY活動(危険予知訓練)もリスクアセスメントと同様に、効果的な労働災害防止対策の一つです。

KY活動では、現場に潜む危険性やリスクを洗い出し、想定される労働災害の防止対策を行動目標と定めます。作業前に指さし呼称を行い、安全を確認してから作業することで労働災害を回避するのが、KY活動の一連の流れです。

KY活動は作業者の危険への感受性を高め、労働災害を起こさないという心がけを教育する効果があります。例えば、「雨で床が滑りやすい→転倒の危険性がある→足下に注意する」といった危険性を回避する思考を徹底させることが可能です。

KY活動ではさまざまな手法があり、4ラウンド法がもっとも代表的です。他には1人で実践する場合の1人KYなどがあります。

リスクアセスメントとKY活動の違い

リスクアセスメントは職場のリスクを洗い出し、労働災害発生の可能性でリスクを見積もり、リスク低減措置を実施するものです。

一方、KY活動は職場のリスクを洗い出し、想定される労働災害の防止対策を行動で示します。

リスクアセスメントとKY活動は似た部分がありますが、実施するタイミングや場所、方法に違いがあります。リスクアセスメントとKY活動における、具体的な違いは次のとおりです。

リスクアセスメントと危険予知活動(KY活動)の違い
実施リスクアセスメントKY活動
いつ設備、作業方法、作業手順等を新規採用または変更するとき毎日又は作業の都度
どこで主に事務所、会議室などで主に作業現場で
誰が作業者、監督者、管理者、安全スタッフが(組織全体で)作業者、監督者が
何を設備や作業手順(書)を対象に作業を対象に
どのように作業を思い起こしながら、手順に従って作業場を確認しながら
危険の程度(優先順)を数値化などで明確にして危険の有無で
よく話し合い、時間とお金をかけて安全な設備、作業方法に改善即決・即断で危険を回避
なぜ職場や作業に潜む危険を根本的に減らすため作業に潜む危険に迅速に対応するため

出典:陸上貨物運送事業労働災害防止協会 はじめての「リスクアセスメント 」

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リスクアセスメントに必要な情報として「危険予知活動」が含まれているように、2つを一体的に実施することで相乗効果が期待できます。
また労働災害を防止するには、企業全体の取り組みだけでなく、作業者ベースのKY活動を定着させることも重要です。

KY活動の理解を深めるなら、通信講座がおすすめ

KY活動は会社内で活動するほかに研修会の参加等でもできますが、実は通信講座でも勉強が可能です。

会社でKY活動を実施する時間がない、KY活動をしっかり理解したいという方には通信講座が最適でしょう。

通信講座では、労働災害が起こる仕組みから、KY活動の手法、実施方法までをトータルで学べます。

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KY活動は作業者自身ができる労働災害防止対策のため、通信講座による勉強で「自分の身は自分で守る」意識も向上します。

リスクアセスメントとKY活動の違いを理解して、正しく実施しましょう

労働災害を防ぐリスクアセスメントは、企業トップの決意表明から実施時期の設定、情報収集、危険性・有害性の特定、リスクの見積もり、リスク低減対策の実施、実施記録と見直しの順で実施します。

一方でKY活動は、職場に潜むリスクで想定される労働災害防止対策を行動目標にし、作業前の指さし呼称で労働災害を防止する活動です。

リスクアセスメントとKY活動は、実施する時期や場所、対象などに明確な違いがあります。それぞれの違いを理解したうえで正しく、かつ一緒に実施することで労働災害防止の相乗効果が期待できます。

KY活動をしっかり理解したい場合、労働災害の仕組みから、KY活動の手法まで学べる通信講座をぜひ活用してみてください。

リスクアセスメントは企業全体で実施するもので、KY活動は労働者自身が実施できる労働災害防止対策です。通信講座でKY活動の本質を理解し、自分の身は自分で守る意識を高めましょう。

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