MTシステム(マハラノビス・タグチシステム)は、品質工学を活用した高度なパターン認識技術です。
多変量データを解析し、正常状態からの逸脱を数値化することで、異常検知や品質管理の精度を向上させます。
ここでは、MTシステムの基本原理、計算方法、適用事例を解説し、製造業や品質管理の現場での活用方法を紹介します。品質向上や効率化を目指す企業や研究者に役立つ情報となるでしょう。
目次
MTシステム(MT法)とは?品質工学のパターン認識を解説
検査項目が増え続ける理由とMTシステムの必要性
製造業の現場では、異常検知のための検査項目が増加し、業務負担が増しています。従来の手法では、新たな異常が発生するたびに新しい検査方法が導入され、管理項目が増加します。

しかし、MTシステムを活用すれば、正常状態を適切に定義し、未知の不良も発見可能なシステムを構築できます。さらに、多数の管理項目の相関関係を自動分析し、原因究明のヒントを提供できます。
MTシステム(MT法)とは?
MTシステムは、統計学者マハラノビスの「マハラノビス距離」と、品質工学の田口玄一博士の理論を組み合わせた手法です。
マハラノビス距離は、データのばらつきを考慮しながらデータ間の距離を測定する統計手法です。これにより、正常状態と異常状態を数値的に識別し、異常検知を高精度で実施できます。
マハラノビス距離とは
ある工程の2つのセンサーのデータを散布図に表しました。X1は不良なのですが、分布の中心からの距離だけで判断すると、青い■点と同じであり、良品と判断されてしまいます。
そこで、マハラノビス距離を使い、分布を考慮した距離になるように軸を変換します。

すると、良品の分布が0を中心に円になるように変換され、X1もこの変換に伴い距離が変化します。この状態で2点間の距離を計算すると、あきらかにX1が遠い位置になり、規格外であると判断することができます。
先の例では、2つのセンサーだけですが、実際には複数のセンサーや管理項目が存在します。

この複数の情報から対象を認識する方法を「パターン認識」といいます。 MTシステムも「パターン認識」の1つの方法です。
私たちはリンゴとトマトを簡単に見分けることができます。しかし、色だけなら同じ赤色です。大きさも10㎝程度であり、単一の尺度だけでは、リンゴとトマトの区別を機械に認識させることは困難です。
そこで複数の尺度を組み合わせて評価する必要性が出てきます。MTシステムは、この認識能力を数値化し、機械でも判断できるようにする技術です。
品質工学とMTシステム
品質工学では、単なる品質評価ではなく、製品やプロセスの「本来の機能」を測定することを重視します。例えば、モーターの品質を判断する際に、騒音や振動ではなく、「安定した回転」を評価基準とします。
MTシステムも同様に、「正常状態」を定義し、それとの違いをマハラノビス距離という尺度で測ることで、異常のパターンを個別に評価するのではなく、一貫した基準で判断します。
正常な状態のリンゴを表す尺度を複数用意し、その尺度を組み合わせた中での違いを距離と言う尺度で判定し、「いい状態のリンゴ」か「少しキズや色むらのあるリンゴ」か「売り物にならないリンゴ」かを、距離と言う数字で表すことができます。
MTシステムの導入手順
MTシステムを活用するためには、以下のステップが必要です。ひとつずつ確認していきましょう。
1.データ収集:正常状態のデータを収集(例:良品の寸法やセンサーの測定値)
通常は、異常状態のデータを集め、その特徴を調べることをしていると思います。しかしそんなに異常が頻発してない場合は、サンプルを集めるのに苦労をするでしょう。
これに対し、MTシステムでは、正常状態のデータを集めます。加工機の設定条件や消費電力や振動、検査結果、前工程の履歴、環境温度など取れるものをすべて取ります。目的は正常の範囲を定義することなので、このデータが肝となります。
2.特徴量抽出:データから特徴的な数値を抽出(例:画像認識なら輪郭や色など)
次に、取得したデータを数値化します。温度や加工条件など数値になっているものはそのまま使えますが、画像データなどは特徴を捉えるために処理が必要です。
そのまま使っても良いですが、特徴量の項目が多くなってしまうため、ある程度の圧縮をする必要があります。圧縮方法としては、積分値や微分値、フーリエ変換などで周波数化などがあります。
3.単位空間の作成:正常状態を基準とする単位空間を作成
正常状態のデータを使い、基準となる単位空間を作成します。いわゆる正常との違いを測るための物差しの作成です。正常状態のデータがいい加減なら、この物差しもいい加減になります。ゴムでできた定規では、寸法を精度よく測ることはできません。
4.マハラノビス距離の計算:新しいデータが単位空間からどれほど離れているかを数値化
作った物差しの精度を調べます。単位空間に使われていない正常データ、異常データを使い、正しく測れているかを調べます。この際に重要なのが、真値です。
品質のいいリンゴを1とした場合、色がくすんでいるリンゴを2、キズのあるリンゴを3とするという具合に定義をします。良品でも最高級品と、ギリギリ売り物になるものという感じで差があります。不良品でもギリギリ売り物にならないものから、まったくダメなものまであります。
正常か異常かの0、1判定ではなく、不良率や、人間が目で見て悪さの程度を評価するなどして数値化しましょう。その真値を使って、作った単位空間の精度を品質工学で使われるSN比をつかって評価します。
もしSN比が低いような場合には、上手く判定できていないということになります。その際には、正常品のデータの項目を見直します。なぜうまく判定できていないのかを見る際には、項目診断を行い、どの特徴量が反応しているのか、もしくは反応していないのかを見ることで、新たな項目を見つけるためのヒントを得ます。
5.判定:計算結果をもとに、正常・異常を判断
ここまでくれば、後は実工程への適用をするだけになります。毎回Excelへ張り付けて解析というわけにはいかないので、後で紹介する専用のMTシステム解析ソフトを活用し、これらのプロセスを自動で実施する仕組みを構築することになります。
MTシステムの種類と応用例
MTシステムには、データの特性に応じて複数の手法があります。
- MT法(逆行列):基本的な方法で、入門者向け
- TS法(シュミット):距離の方向性を考慮した判別手法
- MTA法(余因子行列):逆行列が計算できない場合の対応手法
- T法(タグチ法):データ制約を緩和した分析
- RT法(認識法):信号の真値が不明な場合に適用
これらの手法を活用することで、品質管理や異常検知の精度が向上し、業務の効率化につながります。
MTシステムをより詳しく学ぶには
MTシステムを深く理解するには、品質工学の基礎知識が必要になります。そこでおすすめなのがSATの技術者スターター講座「MTシステム ~パターンマッチングによる判別分析~」です。
SATの講座では、MTシステムの理論だけでなく、実データを用いた演習を通じて、単位空間の作成や項目選択の実践的な手法を学べます。
MTシステムを長年研究し、実務に応用してきた講師から、実際にどのように適用するのか、具体的にはどうするのか、上手くいかない場合はどうすればいいのかなどの、生きた情報を得ることができます。受講後は自社の課題解決にMTシステムを応用できるようになります。
またSATの講座はオンライン講座のため、インターネット環境があればPCやスマホ、タブレット端末で24時間265日いつでも受講が可能です。
MTシステム(MT法)は、マハラノビス距離を活用した高度な品質管理・異常検知手法です。正常状態を基準に違いを測ることで、異常の早期発見や品質向上に貢献します。適切に活用することで、業務の効率化や製品の品質向上を実現できます。
品質管理や異常検知に課題を感じている方は、ぜひMTシステムの導入を検討してみてください。そして、MTシステムについてより詳しく学びたい方はSATの技術者スターター講座「MTシステム ~パターンマッチングによる判別分析~」をオススメします。