労働安全衛生法では、職場を安全で快適な環境にし、労働災害を防止するために、企業内で安全管理体制を構築することが定められています。
しかし、安全管理体制構築に必要な管理者は種類が多く、労働者の人数などで配置条件が異なります。
今回は、安全管理体制の目的を踏まえ、安全管理体制の構築に必要な管理者の中から「安全管理者」、「衛生管理者」、「産業医」、「作業主任者」、「総括安全衛生管理者」を解説します。
安全衛生管理体制の目的
安全衛生管理体制とは、組織的かつ効果的に労働災害防止に取り組む体制のことで、労働者の安全と健康の保護を目的としています。
安全衛生管理体制を実施する際には、権限や責任の所在を明確にする義務があるため、指揮命令系統の役割を担う管理者を事業場に配置しなければなりません。
安全衛生管理体制で配置する管理者
安全衛生管理体制の組織を構成するにあたり、事業場に各種管理者を選任(または専任)する義務があります。
それでは、さまざまな管理者の名称と役割、選任の要件を見ていきましょう。
安全管理者
安全管理者とは、安全に関係する技術的事項を管理する管理者です。
危険な作業の応急措置や防止措置・危険防止の設備や器具の点検・災害原因の調査と対策の検討・避難訓練など、幅広い職務が要求されます。
なお、安全管理者に選任されるには、安全管理者選任時研修を修了して理科系課程の卒業と実務経験があること、または労働安全コンサルタントであること、といういずれかの要件を満たす必要があります。
安全管理者の選任が必要な業種、事業場の規模は次のとおりです。
安全管理者の選任要件 | ||
---|---|---|
No. | 業種 | 事業場の規模 (常時使用する労働者数) |
1 | 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 | 50人以上 |
出典:厚生労働省 東京労働局
なお、特定の業種では、安全管理者のうち「1人を専任」しなければなりません。安全管理者を専任する業種と事業場の規模は次のとおりです。
安全管理者のうち1人を専任する要件 | ||
---|---|---|
No. | 業種 | 事業場の規模 (常時使用する労働者数) |
1 | 建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業 | 300人 |
2 | 無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業 | 500人 |
3 | 紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業 | 1,000人 |
4 | 上記以外の業種 (過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る) | 2,000人 |
出典:厚生労働省 東京労働局
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衛生管理者
安全管理者が危険な作業などの安全面を管理する一方、衛生管理者は衛生に関係する技術的事項を管理する管理者です。
労働環境の衛生調査・施設等の衛生上の改善・衛生教育や健康相談など、健康の保持増進を図るための措置が職務にあたります。
また、毎週1回は作業場を巡回し、労働者の健康障害になりうる作業や設備などに対して措置を講じることも衛生管理者の職務の1つです。
衛生管理者になるために必要な資格は、第一種衛生管理者や第二種衛生管理者、衛生工学衛生管理者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなどが挙げられます。
衛生管理者は、常時50人以上の労働者を使用するすべての業種に選任する必要があり、労働者の数に応じて衛生管理者の数も増えます。衛生管理者の選任要件は次のとおりです。
衛生管理者の選任要件 | ||
---|---|---|
No. | 事業場の規模(常時使用する労働者数) | 衛生管理者の数 |
1 | 50人以上200人以下 | 1人 |
2 | 200人を超え500人以下 | 2人 |
3 | 500人を超え1,000人以下 | 3人 |
4 | 1,000人を超え2,000人以下 | 4人 |
5 | 2,000人を超え3,000人以下 | 5人 |
6 | 3,000人を超える場合 | 6人 |
以下に該当する場合は、1人の衛生管理者を「専任」とする必要があります。
1人の衛生管理者を「専任」とする | |
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No. | 条件 |
1 | 常時1,000人を超える労働者を使用する事業場 |
2 | 常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働又は労働基準法施行規則第18条各号に掲げる業務に常時30人以上の労働者を従事させるもの |
労働基準法施行規則第18条各号に掲げる業務とは、以下のとおりです。
労働基準法施行規則第18条各号に掲げる業務(参考) | |
---|---|
No. | 業務内容 |
1 | 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務 |
2 | 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務 |
3 | ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務 |
4 | 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務 |
5 | 異常気圧下における業務 |
6 | 削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務 |
7 | 重量物の取扱い等重激なる業務 |
8 | ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務 |
9 | 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務 |
10 | その他厚生労働大臣の指定する業務 |
なお、次に該当する場合は、衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者の免許を受けた者から選任しなければなりません。
衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者から選任 | |
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No. | 条件 |
1 | 常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働又は労働基準法施行規則第18条第1号、第3号から第5号まで若しくは第9号に掲げる業務に常時30人以上の労働者を従事させるもの |
ここで指す労働基準法施行規則第18条第1号、第3号から第5号まで若しくは第9号に掲げる業務とは、以下のことです。
労働基準法施行規則第18条第1号、第3号から5号まで若しくは第9号に掲げる業務(参考) | |
---|---|
No. | 業務内容 |
1 | 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務(1号) |
2 | ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務(3号) |
3 | 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務(4号) |
4 | 異常気圧下における業務(5号) |
5 | 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務(9号) |
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産業医
産業医とは、労働者の健康管理を専門的に指導、助言する医師のことです。産業医は健康診断や面接指導の実施、作業環境の維持管理、職場の巡視などを行います。
産業医は医師免許に加え、産業医研修の修了、産業医養成課程の実習、労働衛生コンサルタント(保健衛生)の合格者などの要件を満たす必要があります。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が必要です。
労働者が多いほど産業医の業務が増えるため、労働者数に応じた人数の産業医を選任しなければなりません。50人~3,000人の事業場は1人、3,001人以上の事業場は2人以上を選任します。
なお、以下の条件に該当する場合、産業医を「専属」で配置する必要があります。
・一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場
・常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
作業主任者
労働災害防止の管理が必要な作業では、作業主任者を選任する必要があります。作業主任者は管理者とは異なり、労働者の人数などの選任要件はありません。
作業主任者の選任が必要な作業、必要な資格の一例は次のとおりです。
作業主任者の選任が必要な作業&必要な資格(一例) | ||
---|---|---|
No. | 作業内容 | 資格 |
1 | 高圧室内作業 | 高圧室内作業主任者免許 |
2 | アセチレン溶接装置又はガス集合溶接装置を用いて行なう金属の溶接、溶断又は加熱の作業 | ガス溶接作業主任者免許 |
3 | 機械集材装置若しくは運材索道の組立て、解体、変更若しくは修理の作業又はこれらの設備による集材若しくは運材の作業 | 林業架線作業主任者免許 |
4 | ボイラー(小型ボイラーを除く。)の取扱いの作業 | 取り扱うボイラーの電熱面積等により、特級・1級・2級ボイラー技士免許、ボイラー取扱技能講習 |
5 | 放射線業務に係る作業 | エックス線作業主任者免許 |
6 | ガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の作業 | ガンマ線透過写真撮影作業主任者免許 |
7 | 木材加工用機械を5台以上有する事業場において行なう当該機械による作業 | 木材加工用機械作業主任者技能講習 |
8 | 動力により駆動されるプレス機械を5台以上有する事業場において行なう当該機械による作業 | プレス機械作業主任者技能講習 |
9 | 危険物等に係る乾燥設備等による物の加熱乾燥の作業 | 乾燥設備作業主任者技能講習 |
10 | コンクリート破砕器を用いて行う破砕の作業 | コンクリート破砕器作業主任者技能講習 |
総括安全衛生管理者
最後に総括安全衛生管理者について紹介します。
総括安全衛生管理者は、安全衛生管理体制で事業主に次ぐ重要なポジションです。各管理者を指揮し、労働災害や健康障害を防止する措置を行います。
さらに、健康診断や健康の保持推進措置、労働災害の原因調査、再発防止措置も総括安全衛生管理者の重要な職務です。
一定以上の規模の事業場において、工場長などの統括管理業務に従事する人を総括安全衛生管理者として選任します。総括安全衛生管理者の選任が必要な業種、事業規模は次のとおりです。
総括安全衛生管理者の選任要件 | ||
---|---|---|
No. | 業種 | 事業場の規模 (常時使用する労働者数) |
1 | 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業 | 100人以上 |
2 | 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 | 300人以上 |
3 | その他の業種 | 1,000人以上 |
出典:厚生労働省 東京労働局
安全衛生管理体制は、さまざまな管理者で構築される
安全衛生管理体制は、労働災害の防止、快適な労働環境、労働者の健康保持などを目的とした組織のことです。組織を構築するにあたり、各管理者を配置することが労働安全衛生法で定められています。
それぞれの管理者は、労働者の安全や健康を守る職務を担っています。
労災などの事故がなく、安全に働けているのは、安全衛生管理体制の働きによるものといえるでしょう。