安全管理は、企業のすべての活動の基盤となるものです。「ヒヤリ」としたけど、大事にならずに済んだ…ベテランの作業員が感覚で仕事をしている…あなたの職場で、こんなことは起きていませんか?その一つ一つが、大きな事故につながる可能性があるのです。目先の利益にとらわれず、長期的な視点に立って安全管理に真摯に取り組むことが、持続可能な企業成長への唯一の道といえるでしょう。本記事では安全管理の重要性、災害防止の重要な理論、安全管理の方策、労働安全衛生法をご紹介していきます。
目次
安全管理の重要性
ある会社で、災害調査を行った結果、作業員が安全カバーを外したまま、機械の電源を切らずに清掃を行っていたことが判明しました。さらに、過去にも同様のヒヤリハットが複数報告されていたにもかかわらず、それが共有されず、対策が講じられていなかったことも明らかになりました。
これは「安全対策は個人の注意任せでは不十分である」、「ヒヤリハット情報の共有と活用が不可欠である」「管理体制の不備が災害を引き起こす」この三つのポイントが明確になった事例でした。
反対にある建設現場で、足場の組立て作業中に、作業員が誤って足を踏み掛けました。しかし、適切に設置された手すりに摑まることができ、また、着用していた墜落制止用器具が親綱にフック掛けされていたため、万が一の墜落にも耐えられる状態でした。作業床の隙間も法規制通り最小限に抑えられていたため、道具を落下させることもありませんでした。
これは足場に関する厳しい法的規制を遵守することで、作業員の不注意や不測の事態が発生しても、重篤な墜落災害を防ぐことができた事例です。労働安全衛生法が危険を未然に防ぐための実践的な「ガイドライン」として機能しており、法を順守することで、企業は従業員の安全と健康を守り、結果として企業の社会的信頼性や生産性の向上に寄与することがここから分かります。
なぜ安全管理は「必須」なのか?
「面倒くさい」「コストがかかる」といったネガティブなイメージを持たれがちな安全管理ですが、実は企業の持続的な成長と、そこで働く従業員の未来を守ることに繋がります。
安全管理は「未来への投資」
企業を健全に成長させるためには、安全管理を「コスト」ではなく「未来への投資」ととらえることが不可欠です。適切な安全管理体制を構築し、従業員一人一人が安全意識を高く持つことで、以下のような効果が期待できます。
従業員の安全と健康の確保
何よりも大切な従業員の命と健康を守ることは、企業の社会的責任の根幹です。
生産性の向上
安全な職場環境は、従業員が安心して業務に集中できるため、結果として生産性の向上につながります。
企業の信頼性向上とブランド価値の確立
安全への配慮は、顧客、取引先、社会からの信頼を獲得し、企業のブランド価値を高めます。
優秀な人材の確保と定着
安全な職場は、従業員にとって働き甲斐のある場所であり、優秀な人材の定着に繋がります。
事業継続性の確保
事故による中断リスクを低減することで、安定した事業運営が可能になります。
以上の効果は企業にとってプラスに働くことは言うまでもありません。そういった点から、安全管理は必須項目であるといえるでしょう。
色々な安全衛生理論
災害や事故が発生するたびに、「なぜあの災害は起きてしまったのか」「どうすれば未然に防げたのか」と反省します。しかし、ただ反省するだけでは不十分です。実は、長年の研究と経験から生まれた災害防止に関する様々な理論があり、これらを理解することでより効率的に災害を予測できたり、防止するためのヒントとなります。ここではその一例として、ハインリッヒのドミノ理論についてご紹介します。
ドミノ理論(ハインリッヒの災害ドミノ)
ハインリッヒのドミノ理論は、アメリカの安全工学者であるH.W.ハインリッヒが提唱した、重大事故を防ぐための理論です。労働災害はいくつかの要因がドミノ倒しのように連鎖して発生するといった考え方に基づいており、災害に至るまでの要因を以下の5つのドミノになぞらえて説明しています。
1.環境的欠陥(社会的環境、組織文化)
組織の安全に対する意識の低さ、意識体制の不備、不十分な安全教育など、事故が発生しやすい背景となる環境的要因。
2.管理的欠陥(安全管理上のミス)
安全管理計画の欠如、危険源の特定・評価の不足、不適切な作業手順の策定など、管理体制に問題があること。
3.不安全状態・不安全行動
危険な機械や設備、不適切な作業環境(不安全状態)や、作業員が危険な行動をとる(不安全行動)こと。例えば、保護具を着用しない、定められた手順を守らないなど。
4.事故
不安全状態や不安全行動の結果として、ものが落ちる、転倒する、挟まれるなど、具体的な出来事が発生すること。
5.災害(損害)
事故の結果として、負傷や死亡などの人的被害が発生すること。
ハインリッヒは、この5つのドミノの連鎖を断ち切ることで、災害を未然に防ぐことができると考えました。特に、「不安全状態・不安全行動」の段階で対策を講じることが重要であると主張しました。これは、多くの事故が不安全行動に起因しており、この部分を改善することで、その後の連鎖を食い止めることができるからです。
安全衛生方策
災害や事故が発生したときに、「なぜ起きてしまったのか?」を深く掘り下げ、真の原因を突き止めることが再発防止のカギとなります。しかし、原因究明は往々にして複雑です。
そこで役立つのが、論理的に原因を特定し、効果的な対策を導き出すための分析ツールです。今回はその中でも特に今日強力な二つの手法、フィッシュボーン解析(特性要因図)とFTA(故障の木解析)に焦点を当て、その活用方法と災害防止へのヒントをご紹介します。
フィッシュボーン解析(特性要因図)
フィッシュボーン解析は、その名の通り魚の骨のような形をした図を用いて、ある問題に対して考えられるすべての要因を体系的に洗い出す手法です。
中心の背骨に問題(例:○○作業中の転倒事故)を書き、そこから大骨として主な要因カテゴリ(例:人、設備、方法、環境など)を派生させます。さらに各大骨から中骨、小骨と、具体的な原因を掘り下げていきます。
FTA(故障の木解析:Fault Tree Analysis)
FTAは、特定の望ましくない災害事象(トップ事象)が発生する要因を、論理記号(ANDゲート、ORゲートなど)を用いてツリー上に図式化し、分析する手法です。災害分析においては、ある事故や災害がなぜ起こったのか、その根本的原因を体系的に特定し、予防策を検討するために用いられます。軍事や航空宇宙産業で開発され、その信頼度の高さから様々な分野で活用されています。
ETA(事象の木解析:Event Tree Analysis)
同じようにリスクアセスメントや安全管理に非常に有効な手法としてETAという分析法もあります。
ETAは、特定の初期事象(例えば、地震の発生、設備の故障、人間の誤操作など)が発生した際に、その後の安全機能の作動や人間の対応、システムの応答によって、どのような結果(成功または失敗、あるいは異なる災害シナリオ)に至るかをツリー状に分析する手法です。
FTAは「なぜ災害が起きたか」をさかのぼって分析するのに対し、ETAは、「もしある初期事象が起きたら、その後どうなるか」という形で将来の展開を予測・分析します。
災害分析において、どのような課題に取り組むかによって、これらの分析手法を適切に選択・活用することが大切です。
分析ツールを使いこなす
フィッシュボーン解析、FTA、ETAは、それぞれアプローチが異なりますが、「なぜ事故が起きたのか(起きるのか)」を徹底的に突き詰め、論理的に原因を特定し、効果的な対策へとつなげるという共通の目的を持ちます。また、これらのツールは、単に紙の上で図を描く作業ではなく、関係者全員が事故の原因を深く理解し、再発防止への意識を高めるためのコミュニケーションツールでもあります。
事故は、「起きるもの」ではなく、「防げるもの」です。本講座を受講し、分析ツールを使いこなせるようになりましょう。
安全管理についてもっと詳しく学ぶためには
安全管理について学ぶために、弊社では技術者スターター講座100「役立つ労働安全衛生の実務」をご用意しています。受講することで、受講者と企業の両方に様々なメリットがあります。
- 安全意識の向上
- 労働災害の予防
- 専門知識の習得
- 法的要件の理解
- キャリアアップ
- 労働災害の防止と減少
- 生産性の向上
- コスト削減
- 法令遵守
- 企業イメージの向上
- 安全文化の醸成
安全管理について考えるきっかけづくりに、ぜひ本講座をご活用ください。