製造業は、材料集めから製品完成までに時間がかかり、顧客の待機時間とズレが生じる問題があります。また、納期遅れや迅速な納期回答ができないことが競争力を失わせ、欠品も生産を止める重大な問題です。
そのため、需給計画や生産管理、製造管理といった計画的な業務が必要であり、無駄なコストや時間を削減するための対応が求められます。
ここでは、需給計画・生産管理・製造管理の概要や重要性について解説しています。
目次
製造業が抱えている課題
製造業が抱えている問題のひとつとして、「生産に要する時間と顧客の待てる時間の差の解消」があります。
材料を集めて製品を作るには多くの時間を要します。しかし、お客様はそんなに待ってくれません。その時間差をどうやって解決したら良いでしょうか。
シンプルではありますが、対応方法は「在庫を持つ」です。
何処にどの様な在庫を持つか、複数の方法があります。顧客が待てる時間は製品によって違います。消費財であればその場ですぐに欲しいでしょうし、生産財であれば自社に適した製品を注文するので、作り込みの時間は待っていただけます。そのように製品によって最適な在庫ポイントを設定して在庫します。
在庫ポイントと様々な生産方式
何処に在庫を持ってお客様の要求に応えるかは経営戦略の一つです。これにより生産の仕組みが変わります。
在庫を持つ所を在庫ポイントと言います。たとえば、スパーやコンビニで販売している弁当や総菜などは、顧客から注文を頂く前に見込みで作っておき完成品を店頭在庫しておきます。これを見込生産方式と呼びます。
キッチンカーで料理を提供しているお店では、顧客の注文に応じて仕上げの調理を行い顧客に提供しています。この場合は、仕上げの調理前の段階で在庫しておきます。この方式を半見込み生産方式と呼びます。
レストランや食堂で食事を注文すると、料理人は食材を調理し、盛り付けして提供します。この場合は食材を予め入手し一部仕込みをして在庫しておきます。この方式は受注生産方式と呼びます。この方式は受注生産方式と呼びます。
さらに、特別な食材を扱う料理などは、在庫は持たず材料も顧客からの注文後に調達します。この方式は受注設計生産方式と呼びます。
需給計画・生産管理・製造管理のポイント
在庫を持つことを決めた場合、持つべき在庫の数量をどのように決めればよいでしょうか。
在庫が多過ぎると資金が寝て経営を圧迫します。在庫を処分すると廃棄ロスにつながります。
一方、在庫が少な過ぎると機会損失が発生します。在庫は、多過ぎるか少な過ぎるという状況が多く発生します。

この在庫を適正に保つための活動を日々実践して、多すぎるか少なすぎるかを回避し、ちょうどいいという状態を保つことが、需給計画・生産管理・製造管理のポイントになります。
ここからは、需給計画・生産管理・製造管理に関する重要なポイントや頻出用語について解説していきます。
需給計画とは
需給計画とは、販売計画、流通在庫計画、生産計画の3つの計画を、連動して策定することをさします。そのため生販在計画、PSI(Production/Procurement, Sale, Inventory)とも呼ばれます。
販売計画は企業が製品をいつ、どれだけ販売するかという計画です。即ち「売る計画」です。
この販売計画イコール生産計画ではありません。その理由は、販売計画と生産計画の間に流通在庫計画が存在するからです。
販売計画、流通在庫計画、生産計画はお互いにしっかりと整合させた計画でなければなりません。なお。流通在庫とは、製造したがまだ販売していない在庫です。
販売計画とは
販売計画とは、特定の期間において、どのようにして製品やサービスを市場に提供し、目標とする売上を達成するかを計画するプロセスです。
販売計画の元になるデータは需要予測と販売見込みです。これらは予測値です。販売見込みは単なる期待値ではなく、売上履歴を分析して精度を上げます。
販売計画は精度が命です。作り過ぎて大量の在庫の山ができたり、作る量が少なくて欠品が生じたりすると企業は大きな損失を被ります。
流通在庫計画とは
流通在庫は、一般的には卸売業者・小売業者など、商品の流通過程にある業者によって保有される在庫のことですが、ここでは製造した製品がまだ注文を受けておらず、最終ユーザーに届いていない状態の在庫のこととして解説します。
工場出荷前の倉庫に保管している在庫、出荷後に販売会社等の代理店に保管されている在庫、流通経路にある在庫などです。注文があった際に迅速に納品対応ができる状態の在庫です。
流通在庫計画とは、これらの流通在庫についてどこにどれだけ在庫を持つかを計画することです。
生産計画とは
生産計画とは、製品の生産量・生産時期に関する計画を指します。計画には、生産に要する原材料・部品も含まれます。また生産工程をはじめ、製造から出荷に至るまでの日程が対象です。
つまり、生産計画は、経営計画や販売計画、生産能力や注文状況を踏まえて、どの製品を、どのくらいの数、どのくらいの納期で生産するかをあらかじめ取り決めることです。
この計画によって、効率性、生産性、コスト効果の高さが保証され、市場の需要に適応しながら資源を最大限に活用することができます。
SCM(サプライチェーンマネジメント)
サプライチェーンとは商品を顧客に供給するための一連の業務です。サプライチェーンには「企業間サプライチェーン」と「企業内サプライチェーン」の二つの視点が必要です。
「企業内サプライチェーン」では社内連鎖、つまり営業と生産の連携を十分に取る必要があります。これが十分でない企業は珍しくありません。生産計画の変更や製造日程の変更を月一回しか行えない企業もあります。
生産計画変更の直後に入った需要変更は1ヶ月先の生産計画変更まで待たされます。顧客の視点で活動し、企業内の業務を全体最適に転換することが重要です。
APS・ERPとは(需給計画を支えるシステム)
需給計画を支えるシステムには、スケジューラ(APS)と基幹システム(ERP)があります。
APSは「Advanced Planning and Scheduling」の略称で、資源制約に応じて作業スケジュールを立てます。スケジューラは通常、基幹システム(ERP)とは独立したソフトウェアであり、各社のERPと連携して用いる構成です。
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略称で、経営資源を効率的に配分し、有効活用するための考え方のことです。この考え方を実現するためのITシステムを、「ERPシステム」または「ERPパッケージ」と呼び、会計・人事・生産・物流・販売などの基幹となる業務を統合し、効率化、情報の一元化を図るためのシステムです。
生産管理とは
生産管理とは、製品を効率的に生産するための業務全般を指す言葉です。具体的には、生産計画の策定、購買管理、在庫管理などです。
生産管理では、モノづくりにおいて重要な「品質(Quality)・原価(Cost)・納期(Delivery)」の三つの要素(QCD)を最適化することを目指します。顧客満足度を向上させて企業の競争力を高めるために、生産管理は欠かせません。
生産管理には複数の部署にまたがる幅広い業務が含まれています。生産管理を効率的に行うには各部署が密に連携する必要があります。
基準情報管理
生産管理で使われる主な基準情報を管理することです。システムではマスターとも呼ばれます。製造業の代表的なマスターは、品目マスター、部品表(BOM)、製造工程表の3つです。
これらのマスターで管理される情報を簡単に表すと、品目マスターには「どの様な部品や材料を使って」という情報が含まれます。部品表には、「それらの部品や材料をどのように組合わせて」という情報が含まれます。製造工程表には、「どの様な手順或いは順番でどの様な設備を使って」といった情報が含まれています。
MRPについて
MRP(Material Requirements Planning)は、資材所要量計画と呼ばれ、所定数量の製品を作るのに必要な材料や部品の所要量を計算する機能です。必要な部材(材料や部品)を、必要な時に、必要な量だけ製造または調達するための計画となります。
コンセプトは、需要と供給の最適バランスを求めて、材料や部品を、どれだけ、いつまでに準備するかを計画する、ということです。
購買管理とは
購買管理の基本的な役割は、競争力のある価格で購入する(価格低減)、必要な時に必要な数量を確保する(量・納期確保)、適正な品質を確保する(品質確保)ということです。そのためには、優秀な取引先を確保する・育成する(取引先選定・提携)、短い納期を確保する(納期短縮→在庫削減)、取引先を集約・また部品表(BOM)や品目の統合・品目の削減を推進する、 健全・公正な取引やグリーン調達を進める、という取り組みが重要です。
在庫管理とは
在庫管理は、顧客のニーズを満たし、また、社内業務の効率性を保つ為の最小限の在庫を維持しつつ、資金の効率的な運用をはかることを目的とします。具体的な役割としては、在庫を適正量に保つ、正確な在庫記録を保つ、在庫資産の滅失を防ぐがあります。在庫には資材としての在庫と資産としての在庫の二つの側面があります。いずれの側面でも適正な在庫を持つことで、生産面・資金面で好ましい状況を維持します。
製造管理とは
製造管理は、製造業における生産プロセス全体のうち、製造現場における作業工程の管理のことをいいます。
具体的には、製品を製造するための素材や部品の投入、作業員への作業指示と進捗状況確認などを行い、作業工程を計画通り進めるよう管理します。
製造管理は、生産工程の中の製造現場に着目した管理手法で、限りある製造リソースを効率的に活用し、現場業務を最適化することが目的です。ここでの製造管理には、工程管理、工程内の外注管理および品質管理を含みます。
カイゼン
カイゼンは、日本発祥の継続的改善手法であり、製造管理の戦略として重要な位置づけがされています。カイゼンの基本的な考え方は、「今の状況に満足せず、常に改善を追求する」ことです。
カイゼンは、全従業員が参加し、日々の業務を通じて積み重ねる小さな改善が、長期的な成果につながるという考え方に基づいています。
カイゼン活動の具体例としては、職場環境の整理整頓・5S推進、無駄な動作や待ち時間の削減、作業手順の見直しや生産性改善などがあります。
MES・IoTとは(製造管理を支えるシステム)
製造管理を支えるシステム・ツールにはMESやIoTがあります。
MESとは、ERPなどの基幹系システムと生産設備・制御系システムとの間に位置し、作業指示のディスパッチと作業実績の収集をリアルタイムに行い、計画と実行のシームレスな連携を実現する仕組みです。
IoT(Internet of Things)は、モノや人、システムがインターネットを通じてつながり、データをやり取りする技術です。
製造業においては、IoTを活用することで、生産ラインの稼働状況や機器の故障情報、在庫情報などをリアルタイムで把握し、迅速な意思決定や効率的な生産管理を実現することができます。
需給計画・生産管理・製造管理に関する資格・認定制度
需給計画・生産管理・製造管理に関連する資格・認定制度には以下があります。
- ビジネスキャリア検定「生産管理」分野
- ITストラテジスト
- 各種ERP認定コンサルタント資格
需給計画・生産管理・製造管理をより詳しく学ぶには
需給計画・生産管理・製造管理をより詳しく学ぶには、SATが提供する技術者スターター講座「需給計画・生産管理・製造管理」を受講するのがオススメです。
この講座は、インターネット配信で講習を受講する方法です。インターネットを介して動画を視聴する環境が整っていれば、時と場所を選ばず受講できます。そのため、インターネットを介して受講するケースは増加しています。
SATの技術者スターター講座は、以下のようなメリットがあります。
- 24時間365日、いつでも好きな時間帯にオンラインでの受講ができる。
- 労働局に確認済みのAI顔認証システムにより、受講が担保されています。監視者を別途用意しなくても、受講が無効になることはありません。
- 受講修了証がスマホアプリで即日自動発行されますので、教育を受講したことを証明できる。
製造業の生産形態には色々なケースがあり、それぞれが抱える問題も多様です。

需給計画・生産管理・製造管理を学ぶことは、製造プロセスや判断基準の見直し・最適化など、製造業に於いて抱えている問題への対応のヒントが得られます。
受講するメリットは大きいので、ぜひ従業員と管理者、両方に受講してもらいましょう。