アルミニウムは、いま再び注目される軽量構造材料です。本講座では、金属としての特性や歴史的製錬法、合金化技術、リサイクル法を、技術者の視点から体系的に解説します。環境負荷低減と性能向上を両立する鍵を、共に学びましょう。
目次
アルミニウムという金属:遅れてきた「普遍金属」
アルミニウムほど、身近にあふれていて、それでいて奥深い金属はありません。缶ジュースのフタから、飛行機の機体、電車の車体、あるいはノートパソコンのボディまで、私たちの暮らしは、気づかぬうちにアルミニウムに囲まれています。
ところがアルミニウムは、自然界に豊富に存在するにもかかわらず、実用化されるのが驚くほど遅かったという大器晩成型の遅咲き金属です。理由は簡単で、アルミニウムは酸素と結びつきやすく、鉱石の中では酸化物(ボーキサイト)として安定して存在していたためです。よって人間がこれを金属の姿に還元するのは至難の業で、19世紀初頭には「地球上に最も存在するのに最も手に入らない金属」とさえ言われました。
かつてのナポレオン三世は、アルミニウムの軽くて銀のようにさびない性質を好みました。当時、化学反応を駆使してようやく得られ始めたわずかな量の金属アルミニウムを食器に加工しました。皇帝は賓客に対し、銀の食器ではなく最新鋭の贅沢品としてアルミのフォークとナイフを用意したという逸話が残っています。

今風に考えると、百均の食器で賓客をもてなしている皇帝の姿はユーモラスですね。もっとも皇帝自身は毒殺予防に銀の食器を使っていましたが。
本講座では、かつては金よりも高価だったアルミニウムが、いかにして現代社会の「ありふれた主役」に転じたのかを初心者でも理解しやすいように講義します。
アルミニウムの概要
鉄とアルミニウム
アルミニウムは、どこにでも大量に存在する普遍金属です。同じ普遍金属の仲間には鉄があります。しかし、鉄は大昔から使われていましたが、アルミニウムは19世紀後半になってようやく使われ始めました。
これは、金属を得る方法が大きく異なるためです。酸化鉄は鉄鉱石を木炭や石炭などの炭素により容易に鉄に還元します。残念ながら酸化アルミニウムは電気が発明されて電気分解法が発明されるまで難攻不落の鉱石でした。
精錬技術(ホールとエルー)
現在アルミニウムは、鉱石であるボーキサイトから抽出された酸化アルミニウム(アルミナ)を、電気製錬によって還元して得られます。この画期的な手法は、1886年、アメリカのホールとフランスのエルーという、まったくの無関係の若き開発者たちが、奇しくも同時に発明しました。国境を越えた「偶然の競作」から生まれたこの方法は、今日まで二人の名前を冠して「ホール・エルー法」として知られています。
彼らは、氷晶石(Na3AlF6)の中にアルミナを溶かし、そこに電流を流して金属アルミニウムを析出させる方法を考案しました。現代でもこの電気精錬でも基本構造は変わらず、技術の完成度と合理性が当時いかに高かったかが伺えます。
精錬工程の必要条件
アルミニウムは電気の缶詰と呼ばれるくらい膨大な電力が必要です。このため、製錬工場は水力発電など安価な電力が得られる地域に立地する傾向があります。
戦後、日本は火力発電でアルミニウムを作っていましたが、化石燃料価格の高騰で電力コストが上昇し、酸化物から金属を取り出す一次精錬はほぼ停止しています。が、その代わり、金属リサイクルによる二次地金の活用が活発です。再溶解に要するエネルギーは、一次精錬の3~5%に過ぎず、環境負荷が極めて小さいため、資源循環の観点からも重要性が高まっています。

現在は、カーボンニュートラルの波の中で、再びこの軽くて強い金属に注目が集まっています。
アルミニウムの性質と用途
アルミニウムの性質
金属アルミニウムは、酸素との親和性が高いため、大気中では瞬時にアルミナ酸化被膜を形成します。これが内部を保護し、鉄のように錆が進行することがありません。いわば「自分でさび止めする金属」といえるでしょう。
また、熱や電気の伝導性にも優れ、熱交換器や電線などへ適用されています。実用的には合金化が必須となります。銅、マグネシウム、シリコン、亜鉛などを添加し、熱処理や加工硬化によって所望の機械的性質を引き出すのが一般的です。
アルミニウム合金の種類
代表的なアルミニウム合金としては以下が挙げられます。
代表的なアルミニウム合金
A2024:高強度・中耐食性。航空機構造材に使用。
A5052:耐食性良好。船舶・車体・板金部品向け。
A6061:汎用性が高く、構造用・押出形材に多用。
A7075:超々ジュラルミン。高強度が必要な航空宇宙分野で活躍。

これらの材質記号は覚えるしか方法がありません。
目的に応じた成分設計と熱処理条件の最適化することで、アルミニウム合金として活用できます。
アルミニウムの用途
アルミニウムは単なる軽量な構造材料ではなく、「軽くて、強くて、つくりやすい」ことから、様々な用途に採用されています。
輸送機器分野
航空機・鉄道車両・自動車の軽量化は、燃費・航続距離・CO2排出削減に直結します。飛行機に用いられるジュラルミンは、みなさんも耳にしたことはあるでしょう。アルミニウムに銅などの添加成分を入れて熱処理すると鋼材の強度に匹敵するジュラルミンが得られます。
超々ジュラルミンはわが国の発明で、太平洋戦争中の戦闘機零戦に搭載され、飛行機の軽量化に貢献しました。その後旅客機の機体の構造材料に大活躍しましたが、やがてチタンにその座を譲り、いまでは複合材料が軽量化の役割を担っています。

現在は、主に新幹線や地下鉄の鉄道車両に使われます。
最近では、アルミニウム合金は自動車分野でもフレーム・ボディ・内装部材・バッテリケースなどに幅広く使用され、近年はEV車の構造材としての重要性も高まっています。
建築・土木分野
サッシ、外装パネル、屋根材、橋梁などに使用される理由は、耐食性と加工性、さらには意匠性に優れているためです。軽量ゆえに施工性がよく、再生材としての利用も盛んです。
包装材料
食品や薬品の包装には、薄く延ばしたアルミ箔が使われます。光・水分・酸素を遮断するバリア性があり、安全・衛生面でも評価が高い素材です。飲料用のアルミ缶は、リサイクル率が非常に高い循環型資源の代表例です。
アルミ電線、ヒートシンク、冷却板など、導電性・放熱性を活かした製品群は枚挙に暇がありません。スマートフォンの筐体やノートPCのボディにも使用され、デザイン性の高い外装部材としての評価も得ています。
まとめると、アルミニウムは「軽くて強い」「リサイクルしやすい」「腐食に強い」という性質から、時代ごとの社会的要請に応える素材として発展してきました。

製造技術、精錬コスト、合金設計、さらにはサーキュラーエコノミーとの親和性を考慮すると、今後さらにその重要性は高まるでしょう。
アルミニウムについてもっと詳しく知るためには
本講座、技術者スターター講座100「アルミニウム(基礎・用途・歴史)」は、アルミニウムを過去の金属として取り扱いません。
ここまではアルミニウムの基本とその展開を技術的な観点から概観しましたが、講座ではさらに一歩踏み込み、未来の材料設計を支える金属として、アルミニウムを再評価しました。
もちろん国際情勢も見過ごせません。当然のことながら、日本はリサイクルだけではアルミニウムの需要を賄えず、金属地金を輸入し続けなければなりません。隣国中国の生産動向の認識も必要です。
本講座を受けられた後は、アルミニウムの見え方が大きく変わることでしょう。ぜひ、未来を担う皆様の受講を期待します。