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鉄鋼のすべて:文明を支えた金属の歴史と未来

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鉄鋼は古代の神話の剣から現代の都市構造まで、人類の進化を支え続けてきた金属です。本記事では、鉄鋼の歴史、基本性質、製造プロセス、幅広い用途について体系的に解説します。講師自身の40年にわたる現場経験をもとに、鉄鋼の魅力と未来の可能性を紹介します。

鉄鋼という金属:文明の剣と鎧

このコラムは、ニューヨークのタイムズスクエアに近いホテルの一室で書いています。鉄鋼好きが高じて、メトロポリタン美術館、ギャラリー379の中世の甲冑と刀剣が並ぶ一角に3日間通い詰め、ダマスカス刀剣の前に座り込んで刀剣を観察しておりました。精緻な波紋、削ぎ落された実用美、そして時代と文化が鋼の中に刻まれております。甲冑の存在感も圧倒的ですが、刀剣はさらに凄まじいもので、武器であると同時に工芸であり、祈りであり、技術の結晶そのものでした。
ホテルの近くにはエンパイアステートビルが佇立しています。1931年に完成したこの巨大ビルは、外壁にニッケルを含むステンレス鋼が使われています。そこから数ブロックいくとクライスラービルがあり同じくステンレス鋼で覆われています。まさにニューヨークは鉄鋼の歴史の宝庫です。

鉄。この金属は単なる材料ではありません。文明の骨格であり、意志の延長であり、人類が熱と知恵によって手懐けてきた相棒と言えるでしょう。
本稿では、鉄鋼という金属がどのようにしてこの地位を築いたのか、その歴史、精錬と加工の技術、そして現代社会における役割を、改めて見つめ直してまいります。

鉄鋼の歴史:文明を支えた素材の歩み

鉄が人類の手に渡ったのは、今から約3500年前のことです。最古の鉄器は隕鉄を素材とし、星から落ちた神聖な金属として扱われておりました。やがて紀元前1500年ごろ、ヒッタイト王国が鉄の製錬技術を確立し、「鉄の時代」が幕を開けます。青銅に比べて入手性が高く、強靭で砥げる鉄器は、一気に世界の道具体系を刷新しました。
鉄は武器として戦争を拡大した一方で、鍬や鋤となって農業の生産力を飛躍的に高めました。中世ヨーロッパでは、鍛冶職人が各地に現れ、剣を鍛え、農具を打ち、馬具を整えることで、鉄は日常生活の中核を担っていきました。

18世紀の産業革命では、鉄が社会構造そのものを変えていきました。イギリスでコークスを使った高炉製鉄が本格化し、鉄道、橋梁、機械、建築など、あらゆるインフラが鉄に支えられるようになります。鉄は「産業の背骨」となり、国家の近代化の指標ともなりました。

19世紀末には、ベッセマー法や平炉法が鋼の量産を可能にし、「鉄」から「鉄鋼」へと進化を遂げました。鋼は加工性、強度、靭性のバランスに優れ、20世紀の自動車、造船、建築、家電といった幅広い分野で活躍する万能素材となりました。

こうして、祭器であり神話の剣であった鉄は、都市と機械をつなぐ現代の構造材へと姿を変えていったのです。

鉄鋼の基本性質と種類

鉄鋼材料は、炭素量の違いにより主に「鉄(純鉄)」「鋼(スチール)」「鋳鉄」の三種に分類されます。炭素含有量が0.02%以下のものを純鉄、0.02~2.1%程度のものが鋼、2.1%以上のものが鋳鉄に該当します。
鋼の中でも、用途や機能性に応じた多様な分類が存在します。例えば「軟鋼(低炭素鋼)」は加工性に優れており、自動車や建築などの構造材に広く利用されています。「高張力鋼」は引張強度が高く、軽量化と強度を両立したい分野に適しています。さらに「ステンレス鋼」はクロムやニッケルを含有することで高い耐食性を実現し、キッチン用品から化学プラントまで幅広く利用されています。

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また、近年ではナノ析出物強化鋼といった高機能鋼の研究・開発も進んでおり、鉄鋼材料の可能性は今もなお広がり続けています。

鉄鋼製造のプロセス:鉄を鋼に変える旅

 

鉄鋼の製造は大きく分けて「製鉄」「製鋼」の二段階に分かれています。製鉄とは、鉄鉱石から金属鉄(銑鉄)を取り出す工程であり、製鋼とはこの銑鉄を精錬して望ましい成分と性質を持つ鋼に変える工程を指します。

製鉄

まず、製鉄の代表的な方法は「高炉法」です。鉄鉱石、コークス、石灰石を高炉に装入し、内部で発生する一酸化炭素によって酸化鉄を還元して銑鉄を得ます。この銑鉄は炭素量が多くて脆いため、そのままでは構造材料として使うことはできません。

製鋼

次に行うのが製鋼です。転炉や電気炉を用いて、銑鉄中の炭素や不純物を酸素吹きなどで除去し、所望の化学成分に調整します。転炉法は大量生産に適しており、自動車や建材など汎用鋼材の主力となっています。一方、電気炉はスクラップ鉄を再溶解して鋼にする方法であり、リサイクル性の高さから環境対応型の技術として注目されています。

連続鋳造

その後、精錬された鋼は「連続鋳造(CC)」によって鋳片に成形され、圧延工程に送られます。熱間圧延や冷間圧延によって、板材、棒鋼、線材などに加工され、各種製品として流通していきます。

この一連の流れは、単なる製造工程ではなく、構造と性能を両立させるための技術の積み重ねであり、最終製品の用途に応じた緻密な制御が求められています。

鉄鋼の用途:素材の汎用性と進化

鉄鋼は、あらゆる産業分野に不可欠な構造素材として広く利用されています。その応用範囲は、自動車、建設、造船、エネルギー、家電製品、機械部品、鉄道、航空、宇宙にまで及びます。
注目すべきは、これら多様なニーズに対し、鉄鋼材料は基本的に「鉄」をベースに、成分設計、熱処理、そして塑性加工という三つの手法を組み合わせることで応えている点です。鉄鋼は設計次第で性質を自在に変えることができる「変幻自在の素材」といえます。

たとえば、引張強さ270メガパスカルの軟鋼から、航空機や次世代自動車などに使われる4ギガパスカル級の超高張力鋼まで、強度レンジは極めて広範です。これにより、軽量化、高強度化、耐衝撃性、耐食性など、用途に応じた最適な性能を引き出すことが可能になっています。
また、製鋼は世界的に確立された規格と供給体制を持ち、リサイクル性にも優れていることから、持続可能な開発目標(SDGs)にも適合する素材とされています。

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このように鉄鋼は古代から現代にいたるまで、用途の幅と進化の可能性を広げながら、今後も変わらず社会の根幹を支え続けてまいります。

鉄鋼についてもっと詳しく知るためには

講師は、鉄鋼業界において素材製造を40年間担当し、新鋼材の開発やビッグプロジェクトへの鋼材供給に夢中で取り組んできました。その後は、巨大に組み上げられた鋼材の熱処理を行う企業で技術指導を続けています。
鉄鋼素材という分野では、様々な難問が次々に沸き上がり、すでに数世紀を超える経験を持ちながらも、なお製造技術の完成には到達していないのが現実です。
これからは、脱炭素や水素銑鉄といった新たな潮流の中で、鉄鋼の役割も再定義されていくでしょう。鉄鋼には、まだまだ取り組むべき課題と可能性が無限に広がっています。

技術者スターター講座100「鉄鋼(歴史・性質・プロセス・製品・高強度化)」は、こうした講師の等身大の経験を踏まえ、鉄鋼という素材の本質と魅力を多くの方にお伝えすることを目的としております。臨場感を持って、鉄鋼を知る機会はこの講座を置いて他にないことをお約束します。ぜひ皆さんも鉄鋼の過去、現在、そして未来を共に学びましょう。

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