「電気主任技術者」とは、発電所や変電所、工場などに設置されている電気設備の保守や監督を行える資格です。いくつかの種別に分かれており、それぞれでできる作業範囲が異なります。
ここでは、電気主任技術者の種別の違いや仕事内容、また資格を得るための試験などについて解説しています。
目次
電気主任技術者とは
電気主任技術者とは、電気事業法に基づいて設置が義務付けられている電気技術者の資格のひとつです。
定期的な電気設備の点検は法律で義務づけられており、その保安監督業務は有資格者しかできない「独占業務」です。したがって、電気主任技術者の需要は高く、資格を取得すればキャリアアップや年収アップにも役立つことでしょう。
もちろん電気主任技術者は転職の武器にもなります。また、年を取っても働けるので60代、70代になっても働くためにも有効です。
電気主任技術者の種別
電気主任技術者の資格は、取り扱う事業用電気工作物の電圧によって「第一種」、「第二種」、「第三種」の3つに分かれています。
第一種電気主任技術者
第一種は全ての電気工作物の扱いが可能です。したがって、どれほど高電圧の電気工作物が設置してある施設でも保守・監督業務が行なえます。
その一方で、資格取得の難易度が高い割には「電験一種の資格を持っていないと保安・監督業務ができない」という現場はそれほど多くありません。
そのため、電験二種を取得している方が仕事の幅を広げるために取得するケースが多いです。
第二種電気主任技術者
第二種は、電圧が17万ボルト未満の事業用電気工作物を扱えます。取得していれば、発電所や変電所などで電気工作物の保安・監督業務を行なえるようになります。
第三種に比べると有資格者が少ないので、高電圧の電気設備を抱えている施設からの需要が多く、取得すれば転職にも有利でしょう。仕事の幅を広げたい第三種の有資格者にも人気があります。
第三種電気主任技術者
第三種電気主任技術者は、電圧が5万ボルト未満の事業用電気工作物の保安・監督業務を行なえます。商業施設やビジネスビルなど、日本にある大多数の施設の電気工作物が5万ボルト未満です。
したがって、第三種でも需要は高く、転職の武器にもなります。しかも、取得して5年の実務経験があれば第一種電気工事士の資格も申請で取得可能です。電気に関する仕事に就くならば、取得するメリットはたくさんあります。
電気主任技術者の仕事内容
電気主任技術者が監督者として従事する保安業務は大きく分けて3つあります。ここでは電気主任技術者の3つの業務内容を解説します。
電気設備の点検作業
電気設備の点検は停電状態にしておこなう年次点検や、月次の定期点検等が挙げられます。また毎日、設備に異常がないか確認することもあります。ここでは主な点検作業を解説します。
(1)電流値や電圧値の確認
電気制御盤のメーターの数値の記録やテスターによる電流・電圧の計測・記録作業です。異常があれば、問題を特定し対応します。
(2)絶縁抵抗測定
電気機器、電気設備の絶縁劣化による感電や漏電などの危険性を予防するために被測定物とアース間に電圧をかけ絶縁抵抗を測定します。
(3)配線のネジの緩みのチェック
ネジでとめられた配線が緩むと、電流が遮断されることによる停電や、接触抵抗の増大による火災(ジュール熱による配線の過熱)などの原因となるため、ネジの点検も欠かせない業務です。
(4)非常用発電機の始動試験
緊急時に使われる非常用発電機について、動作開始までの時間や燃料の消費量、出力電圧などを点検します。
電気設備の清掃作業
ほこりなどが原因となる配線の短絡(ショート)を防ぐため、点検時に電気設備の清掃も行います。
なお電気設備における短絡(ショート)とは、ほこりなどの抵抗が小さなものに電流が流れてしまうことによって、回路に過度の電流が流れてしまう現象で、電気設備の故障の原因となります。
電気設備の故障対応作業
電気設備に故障が発生した場合、専門の電気工事士がいる電気工事会社に修理を依頼します。そして電気主任技術者は修理作業に立ち会い、修理作業の監督などを行います。
電気主任技術者になるメリット
手に職がつけられる
電気設備の保安監督業務は「独占業務」であり、有資格者しかできません。そして、一定以上の電圧がある電気工作物は法律で定期的な点検が義務づけられています。
つまり、電験三種の資格を取得すればそれだけ仕事の幅が広がるのです。電気工事士の資格を所有し、さらに電験三種を取得すれば電気に関する仕事の大半は行なえるようになるでしょう。
就職や転職に強い
電験三種は常に全国で一定の需要があります。未経験でも20代~30代前半ならば問題なしという企業も多いので、転職はもちろんのこと新卒での就職にも大変有利です。
そのため、工業高校や工業系の高専では、在学中に電験三種取得を奨励しています。もちろん、30代以降に取得しても転職の武器になります。
AIの時代でも仕事がなくならない
将来的に多くの仕事がAIに置き換わっていくといわれています。しかし、保守や点検業務はその場で状況に合わせて対応しなければならないことが多く、AI化しにくい業務です。
さらに、電気工作物はこれからも設置場所が増えても減ることはないでしょう。将来性もあり、努力して資格を取得する価値は十分にあります。
電気主任技術者と電気工事士との違い
電気主任技術者は設備管理や点検作業などが主な業務で、電気工事士は配線や機器設置、修理などの電気工事が主な業務です。
つまり電気主任技術者は故障(異常)を発見する、工事、停電作業の保安監督をおこなうこと、電気工事士は修理(異常を正常な状態に戻す作業)を担います。
電気主任技術者になる2つの方法
ここでは、電気主任技術者の資格を取得する2つの方法を紹介します。どのような方法があるのでしょうか?
1. 試験筆記に合格する
電気主任技術者は、第一種~第三種それぞれに筆記試験があり、合格すれば取得できます。受験資格は定められていません。性別、年齢、国籍、学歴問わずに受験が可能です。
ですから、全く畑違いの分野から試験に挑戦して合格し、電気関係の仕事に就く人もいます。試験は4科目の筆記試験で、第三種の場合であれば合格率は10%前後です。
難易度が高く勉強時間も必要な試験なので、一発で合格するのは難しいです。科目合格が認められているので数年かけて合格することもできます。
2. 認定校を卒業して実務経験を重ねる
経済産業省が認定した大学・高専・工業高校などで定められた単位を取り、一定の実務経験を積むと電気主任技術者の資格を申請で取得することができます。認定校に在籍している人ならば、選択肢に入れてもいいでしょう。
難易度の高い試験を受けなくてもよい一方で、認定までに時間がかかり必ずしも申請が通るとはかかりません。したがって、時間はかかっても資格を取得したい若い方や進路を決める前の学生向けの方法といえます。
電気主任技術者試験はどんな試験?
電気主任技術者試験は、通称「電験試験」ですが、「理論」、「電力」、「機械」、「法規」の4科目の筆記試験でマークシート方式が採用されています。
なお、第三種と第一種・第二種では試験の内容が異なります。また、1科目ずつ合格点が定められており、科目合格が認められているのも特徴です。
第一種・第二種電気主任技術者試験について
第一種・第二種電気主任技術者試験には、「電力・管理」と「機械・制御」の二次試験があります。内容は計算問題と論説問題です。一次試験に合格し二次試験に落ちた場合は、1年間一次試験は免除されます。
第三種電気主任技術者試験について
第三種電気主任技術者試験は、一次試験のみで二次試験はありません。ですから、一次試験の4科目を合格すれば資格が取得できます。その分、全く畑違いの分野からも試験に挑戦しやすいので、第三種に関しては電気関係の知識が全くない人でも、勉強方法次第では資格取得することが可能です。
科目合格制度をうまく利用する
科目合格制度とは、合格点である60点をクリアすれば5回分試験が免除されます。したがって、1科目ずつ合格していけば4回目の試験で資格取得が可能です。
2022年度から試験回数が年度2回になったので、毎年度2回受験すれば2年で資格取得ができます。難易度が高い試験でも、科目合格していけば確実に合格に近づけます。
一次試験免除制度を使って二次試験に挑む
一次試験免除制度は、第一種と第二種にある制度です。一次試験に合格して二次試験に不合格だった場合、1年間一次試験を免除されます。
ですから、2年目は二次試験対策だけをして試験に臨むことができるでしょう。実際、合格者の50%近くが一次試験免除制度を利用しています。一発合格できる人は半分以下です。
電気主任技術者試験・問題の内容(理論、電力、機械、法規)
電気主任技術者資格の筆記試験には、前述の通り「理論」、「電力」、「機械」、「法規」の4科目があります。
問題の内容は資格種別(第一種、第二種、第三種)によって当然、難易度が異なります。ここでは第三種電気主任技術者試験の大まかな出題内容を解説します。
理論
理論の範囲は、「電気理論、電子理論、電気計測及び電子計測」です。
電気に関する知識全てを網羅するほどの広範囲で、知識と計算力の両方が問われます。出題の割合は、知識を問う問題が2割、計算問題が8割です。
電力
電力は、「発電所及び変電所の設計及び運転、送電線路及び配電線路の設計及び運用並びに電気材料」が範囲です。
知識を問う問題が6割、計算問題が4割程度です。4科目の中では計算問題が易しく、点を取りやすいといわれています。
機械
機械は「電気機器、パワーエレクトロニクス、電動機応用」など、機械に関する幅広い知見を問われます。
理論に次いで難易度が高く、計算問題が6割を占めています。機械と理論の点が取れるようになれば、合格する確率がぐっとあがります。
法規
計算問題も出題されますが全体の4割程度です。暗記科目が多いので、文系の方でも理解しやすい科目といえます。ただし、ここ数年難易度は高めですので、しっかりと勉強しましょう。
あわせて取りたい関連資格
電気主任技術者は電気設備機器を取り扱うため、関連する資格を持っておくと実務や就職に有利に働きます。最後にこれらの資格を紹介します。
おすすめする関連資格は以下の4つです。以下で各資格を解説します。
- 危険物取扱者
- ボイラー技士
- 冷凍機械責任者
- 消防設備士
危険物取扱者
危険物取扱者とは危険物の取扱いや定期点検、保安監督を行える資格で、資格は甲種、乙種に分かれています。
甲種はすべての危険物、乙種は指定された危険物を対象としています。危険物を扱う施設で電気主任技術者として従事する場合、危険物取扱者の資格があると仕事がスムーズに進むことがあります。
ボイラー技士
ボイラーとは水や油を電気屋高温ガスによって加熱して、蒸気や温水を作る装置のことです。
このボイラーを扱うにはボイラー技士という資格が必要とされます。ボイラー技士資格は「特級」、「一級」、「二級」に分かれており、一般的な設備であれば二級ボイラー技士資格でほぼ対応できます。
ボイラー周りの電気設備を扱う場合、ボイラー技士の資格を通じて得た知識が役立つことがあります。
冷凍機械責任者
冷凍機械責任者とは「高圧ガス製造保安責任者」という国家資格の一部で、高圧ガスを用いた冷凍施設で保安業務を行えるようになる資格です。
高圧ガスによる冷凍技術にはビル空調設備等が考えられ、ビルの電気設備の故障対応や点検などの保安業務に活かせます。
消防設備士
消防設備士とは、建物に設置されているスプリンクラーや消化器などの様々な消防設備の点検や整備ができる資格です。
建物は用途や大きさによって、消防用設備(スプリンクラーや消火栓など)の設置が義務づけられています。
電気主任技術者として従事する施設にも消防設備が整えられているケースがほとんどです。消防設備に精通していることで、電気主任技術者として仕事の幅が広がる可能性があります。
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電気主任技術者はどんな役割?
電気主任技術者は、発電所や変電所、工場などに設置されている電気設備の保守や監督を行える資格です。
定期的な電気設備の点検は法律で義務づけられており、その保安監督業務は有資格者しかできません。
第一種~第三種まで3区分がありますが、第三種でも取得するとできる仕事の幅が広がります。
電気主任技術者になるには?
電気主任技術者になるには、4科目の筆記試験に合格する方法と認定校を卒業して実務経験を積み、申請をおこなう方法があります。
短期間で資格を取得したい場合は資格試験に挑戦しましょう。認定校に在籍しているならば、認定制度の利用を視野に入れてもいいですね。
電気主任技術者になるメリットは?
電気工作物の保安・監督業務を独占業務としておこなえるので、転職・就職に大変有利です。
20代~30代前半までは未経験でも需要が高いので、畑違いの分野から転職しても問題ありません。
電気工事士が資格を取得するのもおすすめです。資格手当がもらえたり昇進にも有利だったりします。
電気主任技術者試験の試験って?
電気主任技術者の試験は、第三種が4科目の科目試験、第一種・第二種が科目試験に加えて、二次試験があります。
科目試験は科目合格が認められており、二次試験は一次試験免除制度があります。この2つの制度を利用して試験を有利に進めましょう。2年計画、3年計画で合格する方もいます。